銀色に光り輝く探査機
MMOの形状は、直径1.8mの円に内接する8角柱。上面中央にはハイゲインアンテナが立っており、これも含めた高さは約2.4mとなる。重さは約280kgだ。
火星探査機「のぞみ」は約540kg、金星探査機「あかつき」は約500kgだった。これに比べると、MMOはかなり軽い探査機だと思われるかもしれないが、注意して欲しいのは、MMOには軌道制御用のエンジンや燃料が搭載されていないこと。燃料を含まない重量(ドライ重量)で比べればほぼ同規模で、のぞみ(約256kg)よりは重いくらいだ。
MMOにおける最大の技術的課題は、水星での高温環境にどう対応するかということだ。水星は最も太陽に近い惑星であるため、非常に熱い。その軌道上では、太陽光の強度は地球の10倍以上にもなるという。探査機内部への熱の流入を抑えることができなければ、探査機はあっという間に壊れてしまうだろう。
通常、探査機や衛星は金色の「MLI(多層断熱材)」で覆われている。MLIで熱の移動を遮ることで、熱くなりすぎたり冷えすぎたりすることを防いでいるのだが、水星は熱すぎるため、MLIでは耐えることができない。
そのため、MMOの外周部には、「OSR(Optical Solar Reflector)」と呼ばれる鏡が貼られている。このOSRは、ガラスに銀蒸着を施したもので、太陽光を反射して熱入力を抑えつつ、ガラスから放出する赤外線で内部の熱を外に逃がすことが可能。通常の探査機や衛星でも、放熱部で使われているのだが、それを全面に適用したというわけだ。
ただし、探査機の外部を完全にOSRで覆ってしまうわけにはいかない。太陽電池、アンテナ、センサーなどは外部に露出する必要があるからだ。
太陽電池は、MMO本体の上半分に貼られているのだが、OSRと違って熱を吸収してしまう。この熱が探査機内部に伝わるのを避けるため、じつはこの裏側は空っぽ。探査機の"中身"が入っているのは、じつは下半分のみなのだ。厚さ30cmの円盤内に機器を詰め込んだわけで、かなり高密度な実装だと言えるだろう。
そして太陽電池の裏側の面にはOSRが貼られており、吸収した熱を宇宙空間に放出する。それでも、太陽電池の表面温度は230℃になってしまうそうだ。
MMOで最も高熱になる場所はハイゲインアンテナ(HGA)である。探査機本体はスピンしているため、日向と日陰の繰り返しで熱的にある程度マイルドになるのだが、HGAは通信のため、常に地球に向ける必要がある。そのため、逆回転するモーターでスピンが止められており、アンテナの温度は最高400℃にもなると予想されている。
MMOイメージCGその2。逆回転がかけられ、ハイゲインアンテナはずっと地球を向く (C)JAXA) |
これほどの温度になると、アルミでは強度が維持できない。そこで、アンテナの裏面には、チタンの薄板とセラミック繊維のメッシュで作られた特殊な多層断熱材を採用した。なおHGAは白色に塗装されているが、これも熱の吸収を抑えるための工夫だ。
そのほか、OSRが使えないような場所にはMLIも採用されているが、色は金色ではなくグレーだ。これは、観測上の要求により、探査機表面に絶縁物を出せないためで、MLIの最外層には導電性のあるゲルマニウム蒸着ポリイミドフィルムが使われている。黒では無くグレーなのは、少しでも熱の吸収を抑えるためだ。
なお、MMOに軌道制御用の推進系は無いが、姿勢制御用のコールドガスジェットスラスタは搭載されている。側面の2基×2組(主系/従系)はスピンアップ/ダウンに使い、底面側の2基(同)は回転軸の制御用だ。燃料は窒素で、2年分として4kg搭載する。