キヤノンは3月17日、超広角ズームレンズ「EF11-24mm F4L USM」の技術説明会を開催した。説明会は、イメージコミュニケーション事業本部 副事業本部長 岡田正人氏による商品戦略およびレンズの開発・生産拠点である宇都宮事業所の紹介、ICP第一開発センター所長 金田直也氏によるEF11-24mm F4L USMの技術解説、写真家の石橋睦美氏と凸版印刷 チーフフォトグラファーの南雲暁彦氏による作品を交えたレンズの魅力紹介といった三部構成で行われた。
冒頭、岡田氏は事業コンセプトとして「顧客価値の創造」を軸によりよい商品作り行うこと、EFレンズを通して写真文化の発展に寄与することをモットーにしていると紹介。商品戦略の基本はフラグシップ戦略であり、ハイエンド機に先行技術をまず投下して、それをハイアマチュア機やエンドユーザー機に提供していく形をとっている。
レンズの開発設計・製造は宇都宮事業所で行っており、その中の宇都宮工場でEFレンズ、各種レンズ、特殊光学レンズを生産している。開発設計では、富士通のスーパーコンピュータ「PRIMEHPC FX10」による高度なシミュレーションシステムを使って、試作機を作る時間とコストを大幅に短縮。従来一晩かかっていたシミュレーションでも、すぐに結果を知ることができるようになったという話だ。
製造面では、研磨、レンズコートの蒸着、各パーツの研削、洗浄、組み立てなどを一貫して宇都宮工場で行っており、とくにLレンズに関しては「MADE IN JAPAN」への強いこだわりから、完成まですべての工程をこちらで受け持っている。製造スタッフには「マイスター制度」が導入されており、要求スペックが高い工程は高度な技術を持ったマイスターが責任を持って担当。マイスター制度は「名匠」を筆頭に、S級マイスター、1級マイスター、2級マイスターの階級が設けられている。
なぜ11mmはじまりでF4なのか?
さて、EF11-24mm F4L USMについては、「なぜ11mmはじまりでF4なのか?」という疑問が筆者にはあった。すでに他社から35mmフルサイズ用として、12-24mmでF4.5-5.6、もしくは14-24mmでF2.8というレンズが発売されており、もし出すとするなら「12-24mmでF2.8だろう」という漠然とした思いがあったからだ。その事に関してもよく質問を受けたのだろうか、11-24mmでF4になった経緯も語ってくれた。
「技術的には12-24mmでF2.8のレンズを作ることは可能で、その方がいいじゃないか、という意見も多くあった」と岡田氏。だが、一段暗くしてでも今までにない画角を提供したいというのが最終決定で、先に語っていたように顧客価値の創造といった観点からも、「今までにないものを」という狙いを優先した。実際、魚眼レンズを除いた中では「EF11-24mm F4L USM」は世界最広角である。
次にEF11-24mm F4L USMにおける設計技術について金田氏が詳細に解説した。金田氏が率いる開発センターは宇都宮工場に隣接しており、そこでEFレンズ、コンパクトカメラ、ビデオ、複写機などの光学設計を担当し、光学設計者、メカ設計者、電気設計者が所属しているそうだ。
EF11-24mm F4L USMの最大の特長は、11mmという非常にワイドな画角を実現するために作られたレンズの前玉部分、とくに一番前の「G1」と呼ばれている第1レンズは、EFレンズ史上もっとも大口径な研削非球面レンズになっているとのことだ。第1レンズを非球面にすることで、サイズを抑え、歪曲収差をきっちり補正している。加工精度については、この第1レンズを東京ドームのサイズと仮定すると誤差はわずか1mm以内。非常に高い精度で作られているそうだ。
第2レンズもガラスモールド非球面レンズとしてはEFレンズ史上最大サイズで、ワイドレンズにとって宿命である樽型の歪曲収差を良好に補正している。そのほか、G3、G16で像面湾曲補正をして周辺画質を向上、異常分散ガラスレンズ2枚(G5、G14)で色収差をキレイに補正する構造となっているそうだ。
こういった特殊レンズをふんだんに使うことで、このレンズの特長である、ワイドズームでありながら全ズーム域周辺部まできっちりと描き出す高画質を実現しているとのことだ。
次に語られたのは、フレアやゴーストを抑えるための特殊コーティングを3枚のレンズに施していることだ。ナノサイズのくさび状の構造物が反射を抑制する「SWC (Subwavelength Structure Coating)」を第1、第2レンズに、蒸着膜の上に空気の球を含んだ膜を形成する「ASC (Air Sphere Coating)」を第4レンズに施すことで、フレアやゴーストを可能な限り抑制しているそうだ。ちなみに、SWCを2枚のレンズに採用したのもEFレンズではこのレンズが初めてという話だ。
最後に構造についてだが、このレンズはLシリーズなので高い耐久性能を持ち、防塵・防滴構造となっている。その中でもやはり苦労したのは、大口径で重い第1、第2レンズなどを含む第1群と呼ばれる部分をどのようなメカ構造にするかという話だ。
ズームレンズなので、内部では複雑な動きが要求されるうえに、スムーズさも必要とされるので、転動ローラー構造を3箇所に設けることで実現させたとのこと。また、ある程度の衝撃にも耐えられる設計にしなければいけないので、衝撃吸収ゴム、ウェーブワッシャー (板バネ)を2箇所に設置することでLレンズとしての規格をクリアしたそうだ。