仕事への原動力は"依頼萌え"
約1時間話してだいたい予想がついていたのだが、斉藤には今後の目標がないという。
「『コンセプトを持たない』というのを自分に課しているんですよね。やりたいことはあるのかもしれないけど、それよりもそのときに来た仕事とか、ご縁で生まれたものを大切にしたいですから。もしかしたら、そういう行き当たりばったりなやり方をしていることで、失うものがあるのかもしれないけど、自分から何かをやるというのが得意じゃないんですよ。なるべく拒絶せずにいろんなものを『へえ~。やってみよう』と言えるような、自分をニュートラルな状態に置いておこうと思っているのかもしれません」
ただ、毎朝5時に起きて3児の世話をしながら、仕事を続けていくのは相当難しいのではないか。なぜそんなに頑張れるのか? 原動力を尋ねると、笑顔でこんな言葉が返ってきた。
「何か"依頼萌え"しちゃうんだと思います(笑)。依頼があって『やってください』と言われると、うれしくなって萌えてしまうんですよ。『せっかくだからやらせてもらおうかな』と思っちゃいますし、きっと常に何かをやっているのが好きなんだと思います」
この日もカメラマンと子育ての話を笑顔でするなど、子ぼんのうで知られる斉藤だけに、思春期の子どもたちに後ろ髪を引かれることはないのだろうか?
「子どもたちと一緒にいると、目に見えて、手にさわれるくらいはっきりと、『これが愛情っていうものなんだな、これが幸せっていうものなんだな』と感じるんです。だから子どもたちといる時間を仕事にあてている自分が、『すごくミスしているのかもしれない』という気持ちも正直あるんですよね。実際、休んでいるときもあるのですが、もう少しうまくできるようにバランスを調整できたら、と思っています」
作詞家としての経験も豊富なだけに、ひと言ひと言、最適なフレーズを探しながら、最後まで誠実に応えようとする姿が印象的だった。時計の針は、すでに20時を回っている。あと数時間後には、また子どもの弁当を作る母の顔になるのだろう。
■斉藤由貴
1966年9月10日生まれ。神奈川県出身。身長161cm。1984年の第3回「ミスマガジン」でグランプリを受賞し芸能界入りし、翌年2月に「卒業」で歌手デビュー。同年4月スタートのドラマ『スケバン刑事』で連続ドラマ初主演を果たし、1986年のNHK連続テレビ小説『はね駒』ではヒロインを演じた。以後、数々のドラマ、映画に出演し、歌手やナレーションなど幅広い分野で活躍している。
■聞き手・文=木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。