斎藤五段、緩まず勝ちきる
斎藤五段が金を1枚得して、形勢ははっきり先手よしになった。図5からAperyは△4五角と攻めたが、これは▲4六歩△6七と▲4五歩で先手一手勝ちコースと検討されていた順。斎藤五段も「余せていると思った」。実戦も検討通りに進み、斎藤五段が勝勢を築いた。控室に詰めている棋士たちの顔が明るくなる。
夜になると糸谷哲郎竜王ら関西所属の棋士が駆けつけ、笑顔が絶えなかった。ほっとした表情を浮かべてもいる。だが、対局室で盤に向かう斎藤五段の様子に余裕はない。ペットボトルから直接水を飲んだあとで、グラスに残っている水に気づいて手を伸ばす場面もあった。局面への集中、勝ちを意識しての緊張だろうか。
Aperyは敗勢になっても最後まで、合法手がなくなるまで指し続けた。そこには、与えられた条件に対して忠実に務めを果たしたという以上の事実はない。私は延々と続く王手を見ながら、壁にぶつかっても倒れても、歩き続けようと動くロボットを思い浮かべた。
終局して対局室に入った。取材陣のカメラが勝者に向けられる。斎藤五段は終局直後の緊張からか顔をこわばらせていたが、息を吐いて顔を上げた一瞬、表情に充実感が満ちた。その凛々しい顔つきが今も脳裏に焼き付いている。
将棋電王戦FINAL 観戦記 | |
第1局 | 斎藤慎太郎五段 対 Apery - 反撃の狼煙とAperyの誤算 |
第2局 | 永瀬拓矢六段 対 Selene - 努力の矛先、永瀬六段の才知 |
第3局 | 稲葉陽七段 対 やねうら王 - 入玉も届かず、対ソフト戦の心理 |
第4局 | 村山慈明七段 対 ponanza - 定跡とは何か、ponanzaが示した可能性 |