――監督が各シーンに込めた意図や思いを感じ取ってほしいと。
考えてみる前に「意味不明」と言われてしまったりするのは残念ですね。作っている方は色々な意味を考えて描いているので、そういったものを感じてもらえるとうれしいです。まあ、一度でわかるように作っておけと言われてしまうとそれまでですけど(笑)。
――宮崎さんが引退を表明し、米林監督を後継者として期待する声も多いです。そうしたファンの期待についてどう感じていますか?
ジブリを背負うという意識はせずに作りました。ジブリについては宮崎さんと鈴木さんの考え方次第ですから。僕が考えるべきはお客さんのこと。『借りぐらしのアリエッティ』の時は、宮崎さんの目を意識した部分が大きかったんです。宮崎さんならどうするだろうとか考えたりもしました。でもマーニーでは純粋にお客さんが面白いと思ってくれることをやろうと考えましたし、最初から宮崎さんのことは意識しないようにしていました。逆に"意識しない"という意識をしていたのかもしれませんが(笑)。
――そこは『借りぐらしのアリエッティ』との大きな違いですね。
だから、宮崎さんは、きっとこの作品は好きじゃないだろうなって思いますよ(笑)。もちろん、スタジオジブリのファンの皆さんが期待されることもわかるんです。それに応えたいという気持ちもあります。ただ、ファンの声というのもいろいろだと思うんですよ。「ジブリっぽいものが見たい」という声もありますし、逆に『ジブリっぽいものばかり作るな』という声もあります(笑)。その意味で、今回の「思い出のマーニー」は、ジブリから少し外れた要素を入れていきたいと思ったんです。空一つとってもそうです。ジブリ作品ではピーカン(快晴の青空)が多いのですが、『思い出のマーニー』では曇り空なんですよね。
――言われてみれば、たしかに。
ジブリにしても、ずっと同じことをやってきたわけじゃないんですよ。毎回、実験的なことを色々とやってきました。今までと同じものを繰り返すだけでは、表現する者としてはダメなんじゃないかなと思います。つねに新しいものを模索していかないといけない。だからといって、ひとりよがりでやっていてもお客さんは引いていってしまいます。
そういう意味で「ジブリファンの期待に応えるか」という問いに対しては、「両方やっていく」というのが答えになるでしょうか。スタジオジブリのファンの期待に応えつつ、新しいものを作っていきたいですね。それに、僕は今までスタジオジブリの作品以外の経験がありません。そういう意味では、マーニーには自然にジブリらしさが出ているんじゃないかと思います。
スタジオジブリや宮崎監督よりも、その先にある観客を意識して『マーニー』を作り上げたという米林監督。彼が次代のアニメーション界を担う監督の一人であることは確かだ。ファンの期待に応えながらも、それをさらに超えていく――次の米林監督作品は、どんな映画になるのだろうか。
■プロフィール
米林宏昌
1973年7月10日生まれ。石川県出身。1996年にスタジオジブリに入社し、2010年『借りぐらしのアリエッティ』で初監督。2014年『思い出のマーニー』は監督2作目となり、同年にスタジオジブリを退社。