「将棋電王戦FINAL」戦いの意義

最後に今回の戦いについて、プロ棋士側に立って考えてみたい。

過去の戦いに置いて、コンピュータ将棋が総合的に見てプロ棋士に匹敵する、あるいは凌駕する実力を有していることは証明されている。同時にプロがコンピュータにまったく歯が立たないわけでは、ないということも同様である。そして、この先プロがコンピュータにもっと勝つために必要なことは、遠山五段のインタビューにもあるように、コンピュータ将棋を徹底的に研究して、弱点や癖を見抜き、それに合わせた戦い方に徹することであろう。

しかし、本来人間同士の戦いに勝つことがプロの仕事であり本分なのだ。コンピュータとの戦いに勝ったところで、プロ棋士としての将来にはほとんど意味をなさない。現在のプロは将棋が非常に高度化されたことで、ただでさえ日夜研究に追われている。その貴重な時間を、対コンピュータ戦略を練るということに費やしているわけにはいかないのだ。

だから、コンピュータとの戦いは今度で最後になる。同時に最後だからこそ、今回だけはプロ棋士の本分を一時的に捨ててでも、対コンピュータ戦に特化した戦いを本気でやろうとしているのだろう。そのために厳選されたメンバーが、今回の若手と準若手揃いメンツなのだ。

コンピュータとの戦いに本気で臨む棋士の姿が見られるのは、今回が本当に最後になるかもしれない。メンバーと準備の深さを考え合わせれば、最初で最後と言ってもいい。今回プロ側の勝機がどれほどあるかと問われれば、50%に達しないと予想する。だが、勝敗予想とは別に、過去の戦いとは異なる何かが見られるものと期待している。

第2回将棋電王戦 観戦記
第1局 阿部光瑠四段 対 習甦 - 若き天才棋士が見せた"戦いの理想形"とコンピュータの悪手
第2局 佐藤慎一四段 対 Ponanza - 進化の壁を越えたコンピュータが歴史に新たな1ページを刻む
第3局 船江恒平五段 対 ツツカナ - 逆転に次ぐ逆転と「△6六銀」の謎
第4局 塚田泰明九段 対 Puella α - 泥にまみれた塚田九段が譲れなかったもの
第5局 三浦弘行八段 対 GPS将棋 - コンピュータは"生きた定跡"を創り出したか?
第3回将棋電王戦 観戦記
第1局 菅井竜也五段 対 習甦 - 菅井五段の誤算は"イメージと事実の差
第2局 佐藤紳哉六段 対 やねうら王 - 罠をかいくぐり最後に生き残ったのはどちらか
第3局 豊島将之七段 対 YSS - 人間が勝つ鍵はどこにあるか
第4局 森下卓九段 対 ツツカナ - 森下九段とツツカナが創り出したもの
第5局 屋敷伸之九段 対 Ponanza - 屋敷九段とPonanzaが一致していた読み筋