――ブログでの反応は実際に本の執筆にも影響していますか。

すごく影響しています。特に、距離の測り方みたいなところでしょうか。世の中には"伝わらない悲劇"がたくさんありますが、伝わらない原因の8割方は相手との距離を測り間違っているだけだと思うんです。相手がどれくらいの意識を持ち、どれくらいのことを知りたいのかというのを測りそこねて伝えてしいまい、とんちんかんなことになるケースがすごく多いだろうと。その距離感を間違えないために、ブログなどで「こういうことを説明しなきゃいけなかったのか」とか、「こういうことを知りたいのか」とかいう、反響を見られたというのはすごく勉強になりました。意外なものがウケたりもしますし。

――新書の内容がおもしろくても、読者になかなか届かないということもあると思うのですが、読者に手にとってもらう方法についてはどうでしょう?

一時期は新書からベストセラーがたくさん出て、それまでなかった芸能人やスポーツ選手の本が新書で出るようになりました。でも最近では、ベストセラーはそこまで出なくなってしまったというのはありますね。

ブログだとリンクを張って、「これに対してこういう反論がある」とか「この人がこういうコメントしている」みたいなのが見られますけれども、本だと1冊読んだだけで終わりになりがちです。でもそうではなく、「こういうものもあるんだよ」、「こういう意見もあるんだよ」とつなげて調べられるようになると良いとは思います。具体的には、書店さんのフェアなどもそうですし、書評のサイトなり、そういうところで1つのジャンルからつながっていくような仕組みが発達するといいですね。

将来は地図や動画との連動に期待

――電子書籍で読む方も増えてきていると思いますが、著者としては違いを感じますか。

この本だったら、本当なら電子書籍の文章が動画にリンクしたり、地図と連動して「ここにありますよ」と示したりすることができれば良かったですね。道路関係の面白い動画も公開されているので、そちらにリンクしたりということも将来的にできるとよいのですけれど。

――電子書籍と新書の相性は良い部分はありますか。

僕のように資料として読む人間にとっては、場所をとらず検索もしやすい電子書籍は、大変に便利です。論文なども、場所や検索性の問題から今やほとんどPDFで読みますし、今後は専門書もそうなっていくと思います。動画を使いたい分野や、アップデートが必要な専門書には、電子書籍が向くのではないでしょうか。今後は、漫画と専門書の両端から普及が始まっていくのではないかと思っています。

――最後に、改めて『ふしぎな国道』をどのような人たちに読んでもらいたいですか?

道路を使っているすべての人に、です。普段、空気のように思っている道路にも、それぞれの歴史があります。この間、奈良県の住宅街にある細い路地みたいな国道に行ってきました。これは飛鳥時代からある「竹内街道」という道で、日本が国家として初めて管理した、いわば元祖国道でした。

ただ、今はもう誰もそんなこと知らないし、来歴も知らないでみんな利用している。でも知ってみると「ああ、そういういわれがある道なんだ」と、道路の見方が変わります。というわけで、ぜひ道路を利用するすべての方に、「ふしぎな国道」を読んでいただければと思います。そうすると、1億部くらいのベストセラーになりますしね(笑)。


今回うかがった『ふしぎな国道』以外にも、幅広いジャンルの入門書が新書として出版されている。佐藤健太郎氏のように、タイトルを見ないでランダムに新書を選ぶのも1つの手だが、自分の好奇心をそそるようなタイトルから、読みたい本を選ぶのも面白い。

馴染みのない読者には、なかなか手に取り辛い新書だが、特定のジャンルを集めた書店のフェアなど、新書の読書層を広げようとする動きもある。直近では、電子書籍を扱うブックリスタが新書をテーマにしたフェア「BOOKFESTA 2015 winter」を開催しており、今回の『ふしぎな国道』をはじめ、電子書籍で配信中の新書6,800冊の中から、タイトルがユニークな作品をピックアップして紹介している。

今回のインタビューを機に、これまで新書を読んだことがない方も、気になる新書を探してみてはいかがだろうか。雑学をまとめた本から、ビジネスに役立つ本まで、幅広いジャンルの入門書を扱っている新書。普段触れることのできないような、新しいジャンルへの入門書が見つかるかもしれない。

■プロフィール
佐藤健太郎
1970年生まれ、茨城県出身。東京工業大学大学院(修士)にて有機合成化学を専攻。1995年より製薬企業研究員。2007年に退職、フリーのサイエンスライターに。2009年より3年間、東京大学大学院理学系研究科にて広報担当特任助教。2014年より、東工大特任研究員の肩書きで新 学術領域「π造形科学」広報担当を務める。2010年科学ジャーナリスト賞、2011年に化学コミュニケーション賞を受賞。著書に『有機化学美術館へようこそ』『医薬品クライシス』『炭素文明論』など。