競争激化と多頻度運航へのこだわり
悪天候などの際、出発するかどうかを最終的に判断するのは機長であり、現時点での情報では、今回の事故の責任は当然エアアジアにあると言える。東南アジアの航空便(座席供給量)はここ10年間、年5~10%もの高い増加率を示しており、LCCの座席数も10年で2倍近くまで増えている。知名度の高いエアアジアと言えど熾烈な競争にさらされ、2013年12月期の純利益は前年比で半減している。
エアアジアは保険やホテルなど航空以外のビジネスの拡大を急ぐ一方で、利益を上げるための多頻度運航へのこだわりも強かった。それを象徴していたのが、ANAホールディングス(以下、ANA)との提携解消だ。
エアアジアとANAは2011年に共同出資による「エアアジア・ジャパン」を設立し、2012年8月から日本国内線を就航したが、その後1年あまりで撤退した。エアアジアはグループ会社にもフェルナンデスCEOの意向が強く反映される会社だが、彼ら流のサービスが日本人客には受け入れられにくかったのだが、それとは別にANAの慎重な姿勢にエアアジア側が反発したのも撤退した理由だった。
新生「エアアジア・ジャパン」の今後
エアアジア・ジャパンは2015年から再度、国内線の運航を計画しているが、国土交通省との調整が難航している。今回の事故を見ると、ANAと国土交通省の判断は正しいとも言えるわけだが、エアアジアが多頻度運航にこだわるあまり、インドネシア当局から未許可の日の運航を強行したとなれば大きな問題だ。
インドネシア国籍の複数の航空会社がブラックリストに指定されているなど、国際的な評価が高いとは言えないインドネシアの航空会社ゆえに、国の威信をかけて今回の事故には強い姿勢で臨むはずだ。それが東南アジアの空の安全性向上につながるなら、徹底した対応をしてほしい。
LCCと大手の運賃差が縮小している
さて、今回の事故を受けて、海外旅行時の航空会社選びを再考する人もいるかもしれない。LCCの最大の魅力は運賃の安さだが、フル・サービス・キャリア(大手航空会社)よりも安く乗れる理由のひとつが燃油サーチャージを徴収しないか、大手より安くしているからだ。ところが最近の原油価格の値下がりを受けて、その価格差は縮まっている。
例えば今回、エアアジア機が事故を起こしたシンガポール~スラバヤ間を含む、東京~シンガポール~スラバヤ往復(平日)を見ると、1月まではエアアジアが6万円弱~、シンガポール航空が約8万円と約2万円の差があるのに対し、2月からはエアアジアの航空券代が6万5000円前後~で、シンガポール航空が約8万円~と1.5万円の差に縮まっている。運賃は出発日や到着日によって変わるが、燃油代が下がれば全体的にLCCと大手の差は縮まる。
安全性の高い航空会社の選び方
ここでシンガポール航空を例に出したのは、同社がアジアでも安全性の評価が高いからで、サービスと安全性で航空会社を格付けしているサイト「エアライン・レイティングス・ドットコム」でも、同社の評価は満点の「7ツ星」だからである。もちろん、LCCでも高い評価を受けている会社はある。
ちなみに、日本を含むアジア国籍で、このサイトから安全面で7ツ星の評価を受けている航空会社はほかに、JAL、ANA、キャセイパシフィック航空、大韓航空、LCCのジェットスターなどがある。
もうひとつ、この格付けに付け加えるとすれば「歴史の長さ」による評価だろう。例えば、世界屈指の歴史を持つフィンランドのフラッグキャリアであるフィンエアーは、1923年の設立から数えて90年以上もの間、人身事故はゼロだ。一方でアジアのLCCは歴史が浅く、エアアジアも人身事故がなかったとはいえ、2001年の創業から数えて14年である。アジアを旅する際には、こうした評価を見て便を選ぶのもひとつの方法かもしれない。
筆者プロフィール: 緒方信一郎
航空・旅行ジャーナリスト。旅行業界誌・旅行雑誌の記者・編集者として活動し独立。25年以上にわたり航空・旅行をテーマに雑誌や新聞、テレビ、ラジオ、インターネットなど様々なメディアで執筆・コメント・解説を行う。著書に『業界のプロが本音で教える 絶対トクする!海外旅行の新常識』など。