アイドル卒業後、女優としての最初の仕事は主演に抜てきされた舞台『フライングパイレーツ~ネバーランド漂流記~』(7月30日~8月3日)。「すごくいい経験をさせていただきました」と今では実感できているが、オファーを受けた時は「うれしさよりも不安」。稽古中は「小鳥のさえずりか!」と叱られることもあり、「表現力もダメダメで(苦笑)」と実感した。ボイストレーニングを受けはじめるも、そこでも「心にグサッと刺さること」を言われるのが現実だった。「親には心配をかけたくなかったんです。せっかく、やりたいことをやらせていただいて、応援してくれているから……」という思いから、誰にも見られることのないベッドの中で、落ち込む日々が続いた。
「その悔しさをバネに頑張りました」と当時を思い返す鈴木。本番直前のゲネプロで声が全く出ていなかったことから、必死で発声練習をした。そして、本番。夢中で演じ終えた後に周囲から言われたのは「小鳥のさえずり」ではなく「すごい声が出ていたね!」。そんな娘の姿を、両親は舞台上から見えない席で見守っていたという。「声が出ている自覚がなかったので、ビックリしました」とマイペースだが、「とても大変だったんですけど、無事に終わった時はいろんな思いがあふれて……。ホッとしましたし、もう終わっちゃったんだという寂しさもありました」と"険しい道"をまた一歩進むことができた。
アイドルには"卒業"という言葉が付き物。子役やグラビアアイドルなど"転身"に伴う苦労は芸能界からよく聞こえてくる。中でも「アイドルではなくなる」ことは本人にどのような影響をもたらしているのか。「私は……たぶんアイドルでも特殊なタイプだったと思うんです」と客観視する鈴木。「もちろんオン、オフはありますけど、普段からマイペースの色が強い感じなので、特に変化は無いと思います。自然な状態でアイドルをやらせていただいてました」と彼女にとっては今も昔も同じ"鈴木裕乃"として生きている。
鈴木にとっての2014年は「喜怒哀楽を全部味わった」。現在は、演技レッスンやボイストレーニング、自宅では柔軟体操に励み、さまざまな映像作品にも触れながら「連続ドラマのレギュラー」という目標に向けて準備を重ねている。「少しずつでも仕事が増えるようにレッスンを積み重ねてがんばっていきたいです」という意気込みに加え、「頑張ります」という一言から頼もしさすら感じるのは、成長の証なのかもしれない。
カレンダーイベント後、参加人数を聞いた鈴木は「1,500人!? すごいですね!」と誰よりも驚いていた。アイドル時代には日常化していたファンとの触れ合い。「久しぶりだったんですけど、やっぱり生で応援の言葉をたくさんいただけたのでうれしかったです」とそれが貴重な時間であることを再認識させてくれたのは、エビ中時代から支えるファンだった。だからこそ鈴木は、アイドル時代を決して否定していないし、後悔もしていない。「エビ中があったからこそ今がある」という思いが、ファンの存在と共に彼女の中で唯一無二の「財産」となっている。
「マイペースでがんばってね」「無理しないでね」そんなファンからのねぎらいの言葉の数々が、「直接言ってくださるとうれしいですし、こちらも頑張らなきゃって思います」と女優・鈴木裕乃を奮い立たせている。
■プロフィール
鈴木裕乃
1998年3月24日生まれ。東京都出身。AB型。2009年、スカウトされて芸能界入り。2010年にアイドルユニット・私立恵比寿中学に加入し、2014年4月に卒業。直近では、秦基博「ひまわりの約束(弾き語りver.)」のMVに出演。趣味は漫画を読むこと。特技はテニス。また、自身初のオフィシャルカレンダー「鈴木裕乃オフィシャルカレンダー2015」が絶賛発売中。