日本での実現は?

ユーザー目線からすると非常に便利な機能だが、普段から顧客の囲い込みに必死なキャリアにとっては、死活問題とも言える。実際、米国では最大手のVerisonが参加しておらず、2位のAT&Tも、一度AT&Tを選択するとApple SIMがロックされてしまう仕様だという。またSprintでも、Sprintかアップル直営店で購入したiPad以外はApple SIMが使えないそうで、本当に自由にネットワークを選べるのは事実上T-Mobileだけということになる。現状は、アップルが掲げた理想とは程遠い状況だ。

こうした「抵抗」は、ただでさえ熾烈な顧客の奪い合いをしているうえに、iPadをスマートフォンとの組み合わせで実質無料で配布している日本ではさらに激化しそうだが、auが昨年10月にスタートしたタブレット向けのプリペイドプランのように、将来のApple SIM導入を見越したような動きもある。特にauはプラチナバンドLTEでエリア的な優位に立っているため、長期契約は見込めずとも、他社よりも選択される可能性が高いApple SIMは好都合だろう。

auはiPadでも使えるプリペイドプランを用意

一方で、アップル自身がキャリア選択の手綱を握ってしまうと、ようやく盛り上がりを見せてきたMVNO市場に対する冷水となる恐れもある。また、Apple SIMではIMSI(携帯電話に割り当てられた識別番号)やICCID(SIMカードに割り当てられた識別番号)に対する法的な扱いはどうなるのかなど、クリアしなければならないハードルは多そうだ。こうした政治的・法的な側面からの不安も残る。

Apple SIMの日本導入に対する見方は50:50といったところだが、アップルは日本では圧倒的なシェアを持ち、キャリアに対する影響力も大きい。アップルはワールドワイドでほぼ均一なサービスを展開してきたことを考えると、いずれ日本での導入は濃厚だろうというのが筆者の考えだ。

なお、Apple SIMはあくまでiPad用の技術で、当面iPhoneで利用できるようにはならないということだ。少々残念ではあるが、実際に利用するシーンを考えるとiPhoneよりもiPadのほうで必要とされるケースが圧倒的に多いことは想像に難くないため、個人的にはそれほど落胆する必要はないと思っている。