いいものを作るほどハードルが上がる
PPLでは、通常ラインの精度(許容)範囲より、ひときわ厳しい精度が設定されている。これをより確実に維持するため、新しい取り組みが行われているという。それは製造機械の動作精度をリアルタイムで監視し、さらにグラフで可視化して、精度のズレ傾向を分析するというものだ。これにより、機械の精度誤差の迅速な把握と調整が可能になるという。
福士氏「職人の目が見ているとはいえ、各工程で精度を上げておくことが理想的です。これは、組み立てに使用するパーツについてもいえます。一般的な時計の組み立てでは、パートナーであるメーカーさんから仕入れたパーツをロットごとに抜き取りで検査して、問題のないロットを使用します。そして、各工程の中でさらにパーツを選別していくのです。
が、PPLは違います。まず、仕入れたパーツを全数検査して、合格したパーツだけを使用する。悪いものは最初からラインに入れないという考え方です」
そして、最も心を砕いているのがゴミ対策だ。どれだけ対策を追求しても、ゴミは完全にゼロにはならない、まるでゴールのないマラソンのようなものと福士氏はいう。
福士氏「OCEANUSのような高額商品になると、見た目が美しくて精度が高いのは当たり前なので、とにかくゴミやホコリの混入には気を使いますね。カシオの時計組み立てラインは、作業員が防塵服を着てエアシャワーを通って入室するクリーンルームになっています。
クリーンルームには一定の基準があり、一般的な時計の組み立てラインがクラス10000などとされる中、PPLは、特にゴミを嫌う主要な工程はクラス100を実現しています。この数字は小さいほど清浄で、クラス100というのは半導体やTFT液晶の製造環境とほぼ同じです」
それでも、最終的な検査でひっかかる個体は出るという。
福士氏「ゴミが機械の中に入り込んでしまうことも、ごくごくまれにあります。こうなると外からは見えないので、検査でも分からないのです。カレンダーのディスク針にゴミが付いていたことがありました。1カ月に1日、その日だけゴミが見えるんです。対策に全力で取り組んでいてもこんなことがあるので、気が抜けません」
まさに、いいものを作るほどハードルが上がる。だが、その循環が製品の品質を押し上げているともいる。
続いて製造後、つまり購入後のアフターサービスについてお話を伺う。ここにおいても、OCEANUSのような高額商品は一般商品との差別化が行われているのだろうか。
福士氏「高額商品には専用のサービスがあります。カシオ製品は関連企業のカシオテクノで修理やサポートを行っていますが、東日本地区を管轄する東日本リペアセンター内に高額商品修理の専用ラインを持っています。全国の窓口で受け付けられたOCEANUSはここに集中して、専門スタッフが修理します。これはあまり知られていないので、お客様に安心してお使いいただくためにも、今後はアピールしていきたいですね」