ものづくりでユーザーに伝える「最高の体験」

トークセッションが行われた「DMM.make AKIBA」の「Base」スペース。事前登録の個人・法人事業者や一般見学の来場者も多く、盛況な印象。スタートアップのプロダクト展示も行われていた

テープカットの後は、「DMM.make AKIBA」の"総支配人"を務めるDMM.comの3Dプリント事業部企画営業プロデューサーの吉田賢造氏が施設の概要と、オープン時の反響を紹介。また、ABBALab代表の小笠原治氏とMistletoe代表の孫泰蔵氏、Cerevo代表の岩佐琢磨氏によるトークセッションが行われた。

ABBALabとCerevoは、10月31日に「DMM.make AKIBA」に移転。スタートアップ向けに投資を行うABBALabは、同施設で、IoTハードウェア分野のスタートアップ企業やエンジニア向け投資プログラム「ABBALab Farm プログラム」を提供する。同じくスタートアップ投資企業であるMistletoeの孫泰蔵氏は、「ABBALab Farm プログラム」でプログラム参加者をサポートするMentorの一員でもある。また、Cerevoは同施設に導入する設備監修を行っており、開設後も電子機器設備の運営やノウハウ提供を担当する。

「DMM.make AKIBA」は10月31日にメディア向け発表を行ったが、その前後1週間に一般向け事前ツアーを開催していた。

吉田氏によると、メディア発表前はそれほどの応募はなかったものの、メディア公開以降の反響が大きく、11月10日時点では、事前ツアーの参加者は総計358名に上る結果となった。また、10月31日より、施設利用の事前応募を募っていたが、これも11月10日時点で、当初予定数を超える321名の登録者が集まった。

オープン日となる11日は、事前ツアーの一般参加者に加え、事前登録を行った個人・企業らが集まっていた。吉田氏は、「スタートアップ企業の注目の高さが伺える」と反響の高さについてコメント。オープン日時点では、ロボット/ハードウェア開発・製造・販売を行うユカイ工学、iBeaconを利用したすれ違い通信を行うスマートフォン向け機器「AYATORI」を開発するウィンクル、筋電義手「handiii」を展開するexiiiなどの入居が決まっているという。

ロボット/ハードウェア開発・製造・販売を行うユカイ工学

「AYATORI」を展開するウィンクルは製品展示も

シールドインタラクションデザインの「ものとーく」。ターンテーブルに動きと音を記録させ、繰り返し再生できる

exiiiの筋電義手「handiii」も展示されていた

「世界に通用するハードウェア・スタートアップがここから生まれてくれれば嬉しい。何かの聖地、という文化を持つ渋谷や六本木のように、スタートアップの聖地として「DMM.make akiba」を活用してほしい」(吉田氏)。

ABBALab代表の小笠原治氏

トークセッションでは、ABBALab代表の小笠原治氏が進行役を担当し、孫泰蔵氏やCerevo代表の岩佐琢磨氏と、ハードウェア・スタートアップの現状やCerevo設立時の振り返りや現状の運営方法、「DMM.make akiba」の役割などについて語った。


Cerevo代表の岩佐氏。小ロットの増産を繰り返し、海外の工場から購入者に直送する海外販売のノウハウも披露

Cerevo代表の岩佐氏は、実際に施設でできることについて、「カメラや電子機器、スマホくらいならこの設備で作れる。ルータやNASなども。実際に製品化するには、4m四方に準拠した電波暗室が必要だが、基礎設計は十分に作れる。タブレットも、iPadとまではいかないが、一般に流通する低価格タブレットレベルは十分に作れる。音の反響設備もあるのでAVアンプやワイヤレスマイクなど、オーディオ系のハードウェアも作れる。耐圧潜水設備もあるので防水ガジェットも大丈夫」とコメント。

「ノウハウを持つ人にちょっとした設備があれば、実際にモノが作れる。(DMM.make akibaの設備は)誰も考えなかったような使い方をしてほしい」と期待をみせた。

孫泰蔵氏。ソフトバンクグループの代表である孫正義氏の実弟でもある

また、孫泰蔵氏によると、スタートアップでは「最初は、ユーザーのすそ野を広げるため、汎用機で動くアプリを開発し、その後気に入った人がハードウェアも購入する、という展開と、ソフトもハードも作るが限られた人にしか使われない、という展開の2択で悩む人が多い」という。

孫氏は、開発者が望む「最高の体験」を提供する製品を作るには、ソフトウェアとハードウェアを両方開発する必要がある、と説明。しかし、この方法は手間と時間と費用が掛かる上、リリース当初はアーリーアダプターしか購入せず、ニッチな製品となってしまう。

氏は、「本当の最高の体験は、ハードもソフトもクラウドも自分達で用意するのが一番良い。しかし、汎用機で動くソフトの提供では『そこそこの体験』にしかならない。すると、ユーザーは"こんなもんか"と考え、それより上の体験をしたいと思わない。だとすると、当初は、人数が限られていても、最高の体験を提供した方が良い」と持論を展開。

アウトドア用のウェアラブルカメラ『GoPro』も、初代は限られたユーザーが使っていたが、2代目、3代目になるにつれ、ユーザー数が広がっていったと、米国のスタートアップから始まったGoProの成功に触れ、ハードウェア、ソフトウェア、クラウドを一貫して提供することが大事だと結んだ。