開発した腕時計がヒット商品に
――機内販売品はCAが販売するわけですから、馴染みのある分野だと思えますが、実際は違いましたか。
扱う金額のケタがまったく違いました。機内だと扱うのはせいぜい万円単位ですが、機内販売品全体の仕入れや売上だと億単位ですから(笑)。
もちろん仕事もまったく違いました。機内販売誌の編集とそれに関わる商品の選定、物流、販売現場などのライン周知が主な仕事でしたが、物流の流れや、国際線では関税が絡んできますから、そういうことを覚えるのが大変でした。荷物が違うところへ行ってしまって届かなかったり。機内販売誌をつくるわけですから、校正紙(本になる前の誌面校正用の紙)を持ち歩いて赤字を入れたりもしました。締め切りにも追われて、まるで雑誌の編集者のようでした(笑)。
――いつも機内で商品の売れ行きを見ていらっしゃるわけですから、その経験を活かしたアイデアもあったのでは?
私が担当した2011年当時は腕時計の売り上げが落ちていました。国内線の機内販売で扱う商品は12品目程度しかありませんから、1品目でも売れ行きが悪いと目標の達成に大きく影響します。そこで、JALオリジナルの腕時計をメーカーさんと一緒になってつくったのですが、それが好評だったのです。自分がCAに戻ったときに、その時計をしていただいているお客様を見かけたときは嬉しかったですね。「この時計、安いけど(質が)良くてね」っておっしゃっていただいて感激しました。
CAに戻って分かった意識の変わった自分
――それは達成感がありますね。ところで、吉田さんは現在、CAに戻られていますが、地上職での経験が役に立ったと感じていますか。
やはり地上職を経験する前と後では意識が大きく変わりました。JALは経営破たん後、費用対効果を厳しく求めるようになりましたが、機内販売品を管理する仕事を通じて費用に関する意識を強く持てるようになりました。
さらに、機内販売だけでなく、またお客様への対応の仕方も変わりました。たとえばエコノミークラスで「日本酒のサービスはないんですか?」と聞かれると以前なら、「ないんですよ、申し訳ありません」としか答えていませんでしたが、物流を学ぶことによって品質管理をきちんとしないと美味しい日本酒を提供できないことが分かりましたから、それを踏まえてご説明できるようになりました。サービス全体についての意識が大きく変わったのだと思います。
現在、CAに戻った吉田亜紀子さんは7~8名の部下を持つチーフキャビンアテンダントであるが、彼女が地上職で得た経験や知識は、さっそく機内サービス業務に活かされているという。また、本田さんも今年いっぱいでCAに戻るが、「客室本部での経験を通じて、客観的な視点を持つことができた。何か1つのサービスをするにしても、多面的な角度で見ることができるようになった。たとえ失敗してもフォローアップしてくれるスタッフがいることを知り、それによってお客様にとってもよりよい解決方法を見出す仕組みがあることを知った」と語っていた。
こうして地上職を経験したCAはより良いサービスができるCAへと成長していく。つまり、CAが地上職を経験するという制度は、JALがより良いサービスを提供するための力になっているということなのだ。
撮影:伊藤圭