「熱狂(Frenzy)」という表現が適切かもしれない。米Appleは10月20日(米国時間)、前週16日に開催されたプレスイベントでの予告通り、モバイルペイメントサービス「Apple Pay」の提供を開始したが、これをさっそく試すべく全米各地のメディアやBlogがこぞって街に繰り出して体験記をレポートするなど、一種のお祭り騒ぎとなっている。今回はこのApple Payについて、現状で判明しつつある仕組みと存在意義について考えたい。

9月のイベントでiPhone 6/6 Plusの目玉機能として発表されたApple Pay

手軽で安全な決済方法の仕組み

Apple Payは、iPhoneをクレジット/デビットカード代わりに利用して、財布からカードを取り出さずとも実店舗のレジやオンラインショッピングでの支払いが行えるサービスだ。あらかじめクレジットカード情報をiPhone 6/6 Plus以降に導入されたセキュアエレメント(SE)内に保存しておくことで、あとはTouch IDによる指紋認証で支払いが行える。この際、端末ロックを解除したり、(チップ付き)クレジットカードの利用で必要になるPINコードやカード背面のセキュリティコード入力を求められたりしない。

決済においては、実際のクレジットカード番号ではない「トークン」と呼ばれる代理の決済専用番号を用いる「トークン化(Tokenization)」の手法が用いられ、バックエンドの決済ネットワークや、"イシュア"と呼ばれるクレジットカードを発行する銀行以外がクレジットカード番号や決済金額等を把握する術はない。クレジットカード番号はSE内にのみ保存されており、Appleであっても知る術はない。このあたりの仕組みが、「Apple Payは手軽で安全」といわれる所以だ。

安全性とプライバシーの高さがセールスポイント

2つの決済形態

なお、単純に"Apple Pay"としているが、実際には2種類の決済形態がある。1つはiOSアプリ経由での決済で、アプリ内の決済手段としてApple Payを選択できるというものだ。例えばオンラインでのチケット予約や日用品のショッピングなど、各サービス事業者が提供している専用アプリ内での決済方法にApple Payを選択し、Touch IDに指を載せると、すぐに決済が完了するというもの。

2つめが、いわゆる「タップ&ペイ」と呼ばれる方法で、実店舗のレジに設置された非接触通信に対応した決済ターミナルに、Touch IDに指を載せた状態のiPhoneの上端を近付けると、その時点で決済が完了するというものだ。通信方式には「NFC (Near Field Communication)」が用いられているが、iPhoneに搭載されたそれは、機能的には「カードエミュレーション(CE)」と呼ばれる決済処理に特化した仕組みであり、他の端末が"NFC"の名称で搭載しているNFCとの機能的な互換性がないことに注意したい。