フロントエンドのマッチング
まず、「マッチング」という言葉を使う場合は注意が必要です。現時点では、すべての周波数でフロントエンドを100メガサンプル/秒のコンバータとマッチングさせることはほとんど不可能で、1,000MHzを超える帯域についてもこれは同様です。マッチングという語は、フロントエンドの設計に関して最良の結果をもたらすような最適化を表すものとして用いる必要があります。これは、インピーダンス、AC性能、信号ドライブ強度と帯域幅、パスバンドの平坦性がその特定アプリケーションに最良の結果をもたらすような、すべての要素を含む語として使われます。
この場合、各パラメータの重要度は、アプリケーションに応じて決まります。たとえば、帯域幅(BW)が最も重要な仕様であり、適切なBWが実現できるのであれば、他のパラメータをいくぶん犠牲にすることができる場合もあります。GSPSコンバータの入力ネットワークを図2に示します。ネットワーク内の各抵抗は変数のようなものです。しかし、入力インピーダンスが基本的に同じ値となるように各抵抗の値が変化するため、性能パラメータは変化します(表を参照)。
インピーダンス・マッチング・ネットワークはほぼ同じですが、これら3つの例において導かれた結果は、フロントエンド・ネットワークを設計するために必要な測定パラメータによって異なります。ここに示すマッチングは関係するすべてのパラメータについて最良の結果であり、このケースでは2.5GHzを超えるBWが必要でした。このため、選択肢はケース1とケース2に限られます(図3)。
以下の2つの理由から、ケース2の方がより望ましい選択であると考えます。第一に、パスバンドの平坦性については、2GHz領域に対するリップルがわずか2dBです。第2に、入力ドライブがケース1より3dBm小さくなっています。これは、シグナル・チェーンに至るまでのRFゲインをさらに小さく制限し、バランの一次側で高速コンバータのフルスケールを実現します。この例では、ケース2が最良のマッチングと思われます。
まとめ
GSPSコンバータは、理論的にはより広い帯域幅のサンプリングに関して使いやすく、複数の対象帯域をカバーするほか、フロントエンドRFストリップの混合段の負担を軽減します。しかし、+1GHz範囲の帯域幅を実現するには、高性能コンバータのフロントエンド・ネットワークの設計に関して課題が生じる可能性があります。
バランの特定が持つ重要性に留意してください。たとえば、位相不均衡は、高速ADCにとっての最適な二次直線性を決定づける要素となります。バランを選択した後も、不適切なレイアウト手法によってその性能を無駄にしないようにし、慎重にネットワークのマッチングを取ってください。特定アプリケーションの適合要求を満たすには、数多くのパラメータを適合させる必要があります。
参考文献
1. Transformer-Coupled Front-End for Wideband A/D Converters - Analog Dialogue, April 2005
2. Wideband A/D Converter Front-End Design Considerations - When to Use a Double Transformer Configuration- Analog Dialogue, July 2006
3. Wideband A/D Converter Front-End Design Considerations II - Amplifier- or Transformer Drive for the ADC? - Analog Dialogue, February 2007
4. AN-827, A Resonant Approach to Interfacing Amplifiers to Switch-Capacitor ADCs
5. AN-742, Frequency Domain Response of Switched-Capacitor ADCs
6. AN-912, Driving a Center-Tapped Transformer with a Balanced Current-Output DAC
著者プロフィール
Rob Reeder
Analog Devices(ADI)の上級システム・アプリケーション・エンジニア。
工業および計測分野における軍用および航空宇宙アプリケーションを専門としている。
これまで、さまざまなアプリケーションのコンバータ・インタフェース、コンバータのテスト、アナログ・シグナル・チェーン設計に関して多数の記事を発表してきた。
同社入社以前は、高速コンバータ製品ラインのアプリケーション・エンジニアを8年間務めていた。
同社入社後は、マルチチップ製品グループでテスト開発およびアナログ設計エンジニアリングにも携わり、宇宙、軍用、および高信頼性アプリケーション用のアナログ・シグナル・チェーン・モジュールの設計を5年間にわたって行ってきた。
イリノイ州デカルブにある北イリノイ大学で、1996年に電気工学士、1998年に電気工学修士の学位を取得している。