キヤノンでは、そのほかにもエポックメイキングな製品をいくつも投入している。

1968年にはICを全面採用した「キヤノーラ163」を発売し、機械式から転換。さらに1970年にはキヤノン初のサーマルプリンタ付ポケット電卓「ポケトロニク」を発売。ユニークな名称は一般公募して決定したという。同製品はテクサスインスツルメントと技術提携して開発した世界初の電池駆動式ポケット電卓であった。

また、1970年に発売した「億万単位」の名称を持つ「LC-40U」は、兆の単位まで漢字表示をすることができる製品。「漢字で入力、漢字で読み取り」のキャッチフレーズで、桁数が大きな数字でも、日本人が瞬時に桁を読めるようにした。

バブルジェット式プリンタ電卓「BP1010-D」

1974年にはキヤノン初のFTD表示による8桁モデル「パーム8」を発売。手のひらサイズのモダンなデザインがヒットの要因となった。

1979年に発売した「QC-1」はカレンダー機能を搭載した電卓。1901年~2099年までの198年分の曜日を検索。2001年1月1日が月曜日であることなどがわかる。

また、同じく1979年に発売した「RQ-1」は、FM放送を受信できる電卓を発売。そのほか、スヌーピーやキティちゃんを施したファンシー電卓シリーズも、女性や学生に人気を博した。

1986年にはキヤノン初のバブルジェット式プリンタ電卓「BP1210D/BP1010-D」を発売。1993年には時計機能搭載電卓「CC-10」、1998年にはキヤノン独自のピュアグリーン表示電卓「MP120-DL」などを発売。1997年当時は年間1,000万台の出荷を記録していたという。

2006年には、キヤノン製品の製造過程で生まれたリサイクル材を採用した環境配慮型電卓を製品化。2008年にはマウス機能を持った電卓として、「LS-100TKM」を発売し、PCの広がりとともに話題を集めた。同製品は、通常はUSB接続が可能なマウスとして使用し、電卓として使用する際には、マウスの上部を開くとテンキーと表示部が表れるというものだった。

マウス機能を搭載する「LS-100TKM」

2009年には、スタイリッシュな「X Mark I」を発売。そのデザイン性が注目され、ヒット製品となった。これは、ヨーロッパ市場で発売した「X Mark II」につながり、国際的なデザイン賞である「2013年度レッド・ドット・デザイン賞 ベスト・オブ・ザ・ベスト」を受賞している。

また、2010年には教科書ビューディスプレイを搭載した関数電卓「F-718SSAシリーズ」を発売。さらに、2013年にはプレゼンの際に利用するグリーンレーザーポインターによるプレゼンター機能付き電卓「X Mark I Presenter」を発売し、幅広いラインアップを整えている。

【左】「X Mark I」 【右】「X Mark I Presenter」

キヤノンの電卓事業が向かう先は?

ここ数年、キヤノンの電卓事業は上昇傾向にある。

国内の電卓市場全体では、ほぼ横ばいの傾向にあり、JBMIAによる自主統計では、2013年実績で年間577万台、55億円の市場規模。2014年は、年間583万台、金額ベースで54億円の市場規模が見込まれている。これに、100円ショップなどで販売されている低価格製品をはじめとするPB(※)ブランド製品を加えると、推定約800万台の市場規模。これを含めても市場はほぼ横ばいで推移している。

PB:Private Brand

こうしたなかで、キヤノンはシェアを拡大しているという。「2000年代前半のキヤノンの国内シェアは17~18%程度。これが2013年には24%にまで上昇。2014年は26%の国内シェア獲得を目指す」としている。

シェア上昇の背景には、金融業界などでの安定的な需要を確保しているキヤノンならではの特性に加えて、カラーバリエーション展開に踏み出した「カラフル電卓」での成功など、「ミニ卓上」といわれる領域でのシェア拡大があげられるという。

【左】カラフル電卓によってキヤノンのシェアが拡大している 【右】見やすいように液晶部の角度を筐体でつけているモデル(右)のほか、内部構造で角度をつけるモデル(左)といったように細かい配慮が行われている点も高い評価を受けている要因か

こうした50年間のキヤノンの電卓事業の成果を記念して、このほど、電卓発売50周年を記念した限定モデル「KS-50TH」が発売される。

日本においては、キヤノンオンラインショップのみで販売される記念モデルで、2014年10月20日12:00から、100台限定で用意されることになる。価格は5,000円(税別)。

【左上】電卓発売50周年を記念した限定モデル「KS-50TH」 【右上】専用ボックスと歴史をまとめたオリジナルブックレットを用意 【左下】底面にはシリアルナンバーが記されている

ビジネス向けの上位機である「KS-2200TG」をベースに開発された製品で、薄さ16mmのスリムボディーに大型液晶を搭載。本体には限定色であるライトゴールドのアルミプレートを採用。50周年記念マークのレーザー印刷、キープリントにはUVコーティングを施し、液晶の角度調整も可能にしたほか、3つのキーまで同時に入力を受け付ける、3キー早打ち機能も搭載した高機能モデルだ。

ビジネス向け電卓の上位機である「KS-2200TG」

また、第1号機である「キヤノーラ130」の発売から現在までの歩みをまとめたオリジナルブックレットを同製品に同梱。国内外におけるキヤノン製電卓の変遷が分かる。

ちなみに、45周年の際には、記念モデルとして、X Mark Iシリーズの限定色として赤を用意。限定台数の45台はあっという間に完売したという。

では、今後のキヤノンの電卓はどう進化していくのだろうか。

岡本氏は、「スマートフォンの登場によって様々な製品領域が影響を受けているが、電卓はその影響を受けない市場」と前置きし、「PB商品による低価格領域の市場が一定の比重を占める一方で、高機能モデル、付加価値モデルに対する需要が確実に存在する製品。高齢者向け、小学生向け、女性向けといった需要層に対応した製品のほか、高速で計算する人たちの早押し機能や、キーの音が静かなサイレントキーといった、細かい機能にも評価が集まっている。キヤノンの電卓の特性をひとことでいうと、『多様性』ということになるだろう。今後も様々な利用シーンや、様々なニーズにあわせた製品をつくっていきたい」とする。

電卓市場は、これからも存在し続けることになるだろう。そのなかでキヤノンはどんな差別化を図っていくのか。それは多様性の追求とともに、使い勝手にこだわった、キヤノンらしい細かい進化を遂げたものになりそうだ。