――本作で緋村剣心と刀を2度交えるのは瀬田宗次郎だけです。それぞれ前編と後編で1回ずつ。剣心の成長ぶり、そして真の実力を伝えるためにも瀬田宗次郎はとても重要な役どころでした。前編と後編で変化をつけたところ、工夫などがあれば教えてください。

『伝説の最期編』の方が「本気で殺しに行っている」雰囲気を出すことは意識していました。ただ、『京都大火編』のシーンから少し撮影の期間が空いて、アクション練習もすることができたので、自分自身もその間に成長できていたんじゃないかなと思います。実際に映画を観ていて、あれっ、こんなに早かったっけって(笑)。お互い闘志剥き出しではあったのですが、静かな中での殺意と闘志。そして、負けない自信。でも、ちょっと薄く笑っている。健くんも『京都大火編』は「準備運動です」って言うと思います(笑)。

――先ほどの話にもありましたが、『伝説の最期編』には瀬田宗次郎の人格が崩壊してしまうシーンがあります。精神的にも負担になる撮影だったと想像しますが、いかがですか。

大変でしたね。でも、どうやって崩壊していくかは自分の中で決めていました。動きはアニメとほぼ同じです。のけ反りながら頭を抑えて、叫び出して、床に頭を叩きつける。暗くてあまり映っていませんでしたけど(笑)。リハーサルの段階からやってしまいました。大友さんだからこそできることなんですけど、だからこそ怖さもあります。大友組でのリハーサルはプレゼンテーションみたいな感じなんです。「じゃあいくよ! はい!」って(笑)。でも、それがすごく楽しい。自分でプランニングする能力もつくと思いますし。ただ、いかにそのプレゼンテーションをうまくいくようにするかではなくて、いかに大友さんに喜んでもらえるかは意識しています。「いいねそれ!」って言ってもらえるかどうかが勝負。でも、そうやってモチベーションを高く保てるのは監督のおかげなんです。本当に素敵な方だなと思います。

――瀬田宗次郎という心の闇を抱えているキャラクターに関してはどのような印象を抱いていますか。

闇を持っているキャラクターはいいですよね(笑)。どこかが欠落していて。人間もそうだと思いますし、僕もそういう部分を持っていたいなと思います。その方が自分に興味が湧きますよね。一瞬はぞっとするかもしれませんけど、自分のそういう一面に気づくとおもしろいなと感じてしまうんです。ベースとして自分自身は「つまらない」というイメージ。でも普通です。明るい21歳(笑)。学生時代は学級委員長もやっていましたし(笑)。だけど、そういう面もありつつも、一人でいる時に「こいつすっごく欠落してるな」という部分も両極端で持ってたいなと思います。なおかつ、それらをすべて把握していて自由にコントロールできる状態になったら。どれだけ楽しいんだろうと(笑)。だからこそ、宗次郎を演じるのは本当に楽しかったです。

こういう場もそうですけどいろいろな人の考え方や役を通して、いろいろ勉強させていただいているなと思います。自分の考える手段というか、幅が広がっていければいいなと考えながらそれぞれの役と向き合って。そして、何よりもこの仕事は役柄のいろいろな人間性に触れることができるのが楽しい。役の考えにどっぷり浸かる。逆にどっぷりつかっていないと、相手の人がどう出てくるのか分かりません。浸かってないと反射的に出ないんですよね。例えば「ありがとう」というセリフも、相手がつぶやくような口調だった場合、それが予想していないことでも素で返してはダメなんです。その役の考えを通して反応しなければならない。そうやって役の考え方に近づくいていくことは、すごく楽しいなと思います。そう思うようになったのは…高校を卒業してくらいからですね。社会人になったから、きちんとしなきゃと。

中学の後半頃は自分があまりよく分かってないというか、どう振る舞えばいいのか分からなくなっていたんです。おそらく、誰もが通る道だと思うのですが、マネージャーさんに「ありのままでいいよ」と言われたのが、すごく楽になるきっかけでした。舞台あいさつとか苦手で緊張してよく噛むのですが、それは良いことを言おうとするからだと。自分の言葉であれば簡単な言葉でもいい。そのままでいいんだよと言ってくださったことは、自分にとってすごく大きなことでした。

――志々雄真実が瀬田宗次郎への教えとして「強ければ生き、弱ければ死ぬ」という言葉を伝えます。神木さん自身としてはどう思いますか?

世の中、案外そうだと思います。勝つか、負けるかの残酷な世界。スポーツの世界もそうですよね。どれだけ惜しい試合をしても、結局は勝者と敗者でしかない。それを敗者はどう受け入れて次へ進むか。勝者は自惚れることなく次に行き、その上で、理想なのは敗者と勝者が仲良くなること。ただ、世の中のいろいろなことが数値化されて順位付けされることもそうですけど、結局は勝ち負け。プラスかマイナスか。そこに道徳的なところが重なり、その3つのバランスが大切なんだと思います。

――芸能界もその「弱肉強食」の世界だと思います。やはり、神木さんもそれを肌で感じるわけですね。

オーディションもそうですけど、いくら頑張っても、あっさりと1次審査で落ちることもたくさんあります。ただ、「運」も大切で(笑)。90%が勝ち負けだとしたら、運が10%という感じでしょうか。芸能界だけではなくて、会社もそうですよね。だから、志々雄さんの言葉はあながち間違いではないなと。

――ご自身で大切にしていたり、心がけている言葉はありますか。

「実るほど、頭を垂れる稲穂かな」です。

――すんなりとその言葉が出るのはすごいですね。

母の教えです(笑)。これまで生きてきて、やっぱり、立派な人ほど腰が低いのかなと思います。中井貴一さんや福山雅治さん…いろいろな先輩方を見ていてもそういうことなのかなと思います。僕はまだまだですけど、もっと歳を重ねても人を尊敬できるような人間になっていたい。自分の考えも少しは主張しながら、そういう"人を敬うこと"は忘れないで生きていきたいです。

――それでは最後に。神木さんにとって今回の『るろうに剣心』はどのような作品ですか。

僕にとっての「夢」の作品。夢の中にいたような(笑)。自分の愛したキャラクターはここまでも追求したくなるのかと。「探究心の底がない」というひと時を味わうことができました。監督、共演者とスタッフの方々。振り返ってみても、すべてが良い環境で撮影ができたんだなと思います。

■プロフィール
神木隆之介
1993年5月19日生まれ。埼玉県出身。1999年にドラマ『グッドニュース』(TBS系)で俳優デビュー。映画『妖怪大戦争』(05年)で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞し、その後も『SPEC』シリーズ、『桐島、部活やめるってよ』(12年)、CX「家族ゲーム」(13年)、WOWOW「変身」(14年)などに出演。『サマーウォーズ』(09年)、『借りぐらしのアリエッティ』(10年)など声の出演でも高い評価を得ている。現在、『神さまの言うとおり』(11月15日公開)、『バクマン。』(15年)の公開を控えている。