同時に、自分が次に行けるというある種の信仰を持つことも重要です。つまり、人間は死ぬまで引退はできない。「引退する」という言葉遣いをするということは、"G"という文字を見た時に"ガンダム"と思うしかないのと同じで、口に出した瞬間に「お前もう死んだんだよね」ってことで、認識論的に言えばそうなります。
――ここまでのお話を聞いていると富野監督に引退はなさそうですが、ご自身の中で「引退」をどう捉えていますか。
外交辞令上「ちょっと引退します」と、自分では擬態をしているつもりなんだけど、そんなことを言ったら最後ですから、僕から言わせれば「本気でおまえ死にたいんだろ」という話です。極論を言えば人間は死ぬまで働くべきで、「リタイア」という言葉は危険なんです。あるいは「老後の暮らし」という言い方もあります。これも甘えです。もちろん、健康状態は前提にあるけれども「毎日毎日、小学生の通学路に立って交通整理ぐらいやってみせる! これがわたしの老後の生活だ!」と言い切れ、ということ。余生やスペアという意識ではなくて、それを自分の義務としてやること――「その地域を守るわたし!」という姿を見せることが、とても大事なことだと思います。これも人との関係性をつくる上では重要で、こういう意識をもてば、自分自身が自己啓発されることが確かにあるんです。
――富野監督が70歳を超え、かつて見ていた子供たちの見え方は変わってきましたか?
70歳を越えた年寄りになって子供たち、孫たちに可愛さを感じるということは、年寄りが死ぬまで元気でいられる完璧なキーワードをもらっていることになります。これは「おじいちゃんは、年をとったからお孫さんが可愛いんですよね」ということではない。孫がいるおかげで年寄りが生かされているんだという言葉遣いを、もっと我々は正確にすべきなんじゃないかと思っています。それに"働く"という言葉をつけてしまうと、色々な問題がでてくるから簡単には言えないけれど、元気ということには繋がります。元気に生きることは、老人看護の問題でも、手厚い看護をするよりは元気で健康でいる方が老後対策としてお金がかからない。イギリスでは、具体的に実施され始めています。そういうことも含めて、年寄りの義務とはなんだろうということを改めて考えるようになりました。
僕の周りの世代で言えば「年をとって働いている自分がとてもみじめな存在なんだ」という観念を持っている人もいます。これは変えていかなければいけない考え方です。今の日本で言えば、労働人口が減っていく……だったら、定年は全部廃止! 働けるやつ、死ぬまで働かせる! という発想をしなければいけないんだけど、この言い方をすると「人をそこまで働かせるのか?」「酷使するのか?」という発想が返ってきます。
だけどそうじゃない。「死ぬまで元気でいましょうよ」という話をするために、むしろそういう回路にしていなかなければならないんです。年寄りが穀潰しではいけないから働けという言い方になります。そこから還元することによって、社会を維持するための年金を抑えることにもなるし「最後に、じいちゃんばあちゃんたちが幸せに死んでいってくれてよかったよね」って褒められるのではないか? 色々と脱線したけれど、こういう構造にしようよっていう話まで『G-レコ』ならパパパッとできるんですよ(笑)。
――『G-レコ』に期待している大人たちについてはどうでしょう。これまで「大人たちには観るな」とおっしゃっていましたが。
僕は『G-レコ』について「大人たちは観る必要がない、子供に見せてくれ」という言い方はしていますけど"子供に見せる"ということは、つまり親が許すということ。それを親が認識するということは、親が入口になるということです。これは、過去の「ガンダムシリーズ」のように無制限に見てくださいと言わないアピールの仕方もあるのではないか――ということも実はかなり意識しています。営業が絶対に理解してくれないんだけれども(笑)。もちろん、子供たちに観てもらいたいのは前提。そこから「大人が観る必要はないから」と言われると、「えっ? どういうものなんだろう?」って気にはなるでしょ?
――(笑)。完全に富野監督の術中にはまっていますよ。ガンダムファンは(笑)。
これはものすごく重要な構造です(笑)。子供に聞かれた時のために真剣に観なければいけないということでもある。もしかしたら、子供に「お父さんそれ違うよ。『G-レコ』で言いたいのは実はこういうことだよ」と言われ、親が「ええっ!? 気がつかなかった!」と、もう一度観なければいけない(笑)。もちろん理想的な形ではあるけれど、そういう作りになっています。「お父さんロボットばかり見ていたらダメだよ。なんでモビルスーツの話ばかりするの?」なんて言われて、逆に子供に怒られてしまうかもしれない(笑)。そうなるといいんだけど、見かけはそうじゃありません。今までのガンダム以上に、おもちゃやグッズにマッチングしてます。これが『G-レコ』のとってもいやらしいところです。