若田宇宙飛行士と佐々木監督が語る、宇宙での働き方

続いて行われたトークセッション第2部には、サッカー女子W杯でチームを優勝に導いた、日本女子代表(なでしこジャパン)監督の佐々木則夫さんも参加。3人で世界で活躍する日本人リーダーの素顔などについてトークが行われた。

阿川さん「ISSではお父さんみたいな年齢の船員を指揮したわけですよね。どんな感じだったんでしょうか?」

若田さん「監督というよりは、選手兼マネージャーのようなものなんですよね。まずは実験などの現場作業をやって、あとからチームの取りまとめをやるので。中間管理職ですね。仲間とやっている中で、きちんと船長の仕事はやっていかないといけないですけどね」

阿川さん「若田さんはよく『我々は中間管理職だ』とおっしゃっていますよね。どうしてですか?」

若田さん「宇宙飛行士だけでできる仕事って少ないんですよね。地上の管制局とやりとりしながら宇宙飛行士をまとめるので。管理者からの指令をメンバーに伝えて、メンバーの希望をくみ取って管理本部に伝えるので。大きなチームの中で、クルーをまとめているので『中間管理職』と表現していますね」

佐々木さん「リーダーというのは、年齢の高い低いではなくて、センスによると僕は思いますね。若田さんは野球をなさっていたそうで、そういうところのコミュニケーション力とかもあるんじゃないですか」

阿川さん「そんな上手な選手じゃなかったそうですよ」

若田さん「そう、僕はレギュラーになりたかったけどなれなかったんですよね(笑)」

佐々木さん「だからこそ逆に言うと、そういうところの良さが質を高めるということもありますよね」

阿川さん「野球でも言いますよね『名選手は名監督になれない』って。弱みを知らないからでしょうね。なぜ打てないんだろうって思っちゃうという」

若田さん「そうですね。野球では縁の下の力持ちというか、チームのために何をやったらいいのかを考えながらやっていましたね。それで引っ張る方になったら相手の気持ちも考えられるようになったのだと思います」

阿川さん「佐々木監督は最終的に女子だけの世界に入ったわけですよね」

佐々木さん「そうですね。キャンプに行けば女子寮の管理人のおやじみたいな感じですね。でも結構居心地いいですよ。そんな違和感もないですね」

阿川さん「歳としてはお父さんみたいな感じですよね。そんな中で、佐々木監督が就任されてからなでしこジャパンは本当に強くなりましたよね」

佐々木さん「30年間の歴史の中で、積み上げてきたものがありますからね。それと選手と一体感を持ったことが大きいですね。お互いに信頼しながらやっていくことが、チームが勝つということだと思います」

2人共仲間や選手との信頼関係を重視しているという姿勢が明らかになった。トークセッション中には、参加者から寄せられた仕事の悩みに答えるコーナーも。そこでは若田さん流仲間のこころのつかみ方も披露された。

阿川さん「部下の手柄は自分のもの、自分の失敗は部下のせいというような嫌な上司にあたったらどうすればいいんでしょうか?」

佐々木さん「そういう上司を見たら、まねをしないということですね。どこにもいるんですよそういう人」

阿川さん「サッカー協会にも?」

佐々木さん「いますいます(笑)。そういう人はそのうちいなくなるので反面教師にします。あとは飲み屋で発散します」

若田さん「宇宙だと飲みにいけないんですよね(笑)。なので、ストレス発散するとなると、食べることしかないんです。おいしいものを食べられないのって結構つらいんですよ。宇宙では通常の食事の他に、自分の好きな食べ物、ボーナス食を持っていけるんですが、僕が船長の時にアメリカ人船員のボーナス食が着かないということがわかったんですね。自分が好きなモノが宇宙にないっていうのは問題なので、管理部門に『彼の好きな食べ物を僕たちが着く前に打ち上げてくれ』ってお願いしました。のちにクルーが自分のボーナス食をこうして運んでもらったってわかると、信頼度もぐんと上がりますからね」

阿川さん「食べ物で釣るっていう、ちょっと計算してるんですね(笑)」

若田さん「そうですね(笑)」

リーダーとしての苦労話から食事の話まで、大いに盛り上がったトークセッション。最後に阿川さんが対談の感想を尋ねられ、2人は以下のように振り返った。

佐々木さん「本当に勉強になりました。若田さんの仕事を通して、自分の仕事を見つめなおすこともできましたし。どんな時でも、食事って大事なんだとわかりました(笑)。また、いろんな国の人の間に入ってコントロールできるところが素晴らしいですね。物事を一方的に押し付けるのではなく、若田さんのようににこやかに仕事をしたいと思います」

若田さん「佐々木監督の素晴らしいリーダーシップや思いというのは宇宙ステーションにも通じるところがあるのかと思います。チーム一人ひとりの思いをくみ取ってあげる、そのコミュニケーションが信頼を作るということを強く感じました。また、問題があった時も自分で責任をとる、覚悟を持つというところが共通して大切なことなんでしょうね」

日本を代表して世界や宇宙という舞台で働くということは、並大抵のことではない。佐々木監督も若田宇宙飛行士も計り知れないプレッシャーの中で素晴らしい成果を残してきた人物だ。彼らは「チームを動かすには信頼関係が重要」と口をそろえていたが、その信頼関係は、彼らの優しくも頼りになる人柄から生まれているのではないかと感じさせるトークイベントだった。部下と信頼関係が築けていない管理職の人も、上司とうまくいかない若手社員も、彼らの働き方を参考にしてみてはいかがだろうか。