――作画の橘先生とは最初、漫画家とアシスタントの関係だったのですね。しかし、そこから原作と作画になるのは珍しいのでは?

編集:それは私からお話させてください。橘先生はすごく温厚な方で、どんな下手な人でも使ってくださるんですよ。ところが、貴家先生の場合は3日くらいで橘先生から「ちょっとこれは……」と(笑)。だけど、貴家先生の作品はそれ以前からとにかく台詞のキレがすごかった。これはスケールの大きな話を描けるんじゃないかと思っていて、ちょうど『テラフォーマーズ』の1話のネームが上がってきたところだったので、橘先生にお見せしたんです。

――橘先生の反応はいかがでしたか?

編集:絵が下手すぎてよくわからない、というお返事でした(笑)。でも僕は面白いと思っていたので、騙されたと思ってこのネームを清書してみてくださいとお願いしたんです。それからしばらくして、橘先生から電話がかかってきて、「これ、超面白いんですけど!」と(笑)。橘先生の連載がちょうど終わったところだったこともあり、二人でコンビを組むようになったというわけです。

――なるほど。かなり偶然も重なって生まれた作品だったのですね。

普通の漫画家さんはまず新人賞を取って、その作品が掲載されて、その間に授賞式があったり、アシスタント時代の仲間がいたりするんですが、僕はそういうのがないので、新年会なんかに行っても友達がぜんぜんいないんです(笑)。

――改めてアニメのお話を聞かせていただきます。OVAをご覧になって、お気に入りの場面はありますか?

バグズ2号から車で脱出するシーンですね。メダカハネカクシの能力で飛び出すのですが、それがすごくかっこいいんです。メダカハネカクシの能力を説明するナレーションが微妙に中途半端に終わっているのが緊迫感にもつながっていて好きですね(笑)。

――キャスティングなどは貴家先生のイメージ通りでしたか?

キャスティングに関してはオーディションに参加させていただいて、ある程度こういう声が良いとか意見を出しました。当たり前ですけど、皆さん演技が上手で、納得の仕上がりです。漫画を描くときもある程度は声をイメージしているのですが、かなりイメージに近いですね。あとはアイキャッチのゴキブリですね。製作の方が気合を入れて描いてくれたらしく、すごくリアルな動きをするんです(笑)。

――思い入れの深いキャラクターなどは?

ミイデラゴミムシという虫をベースにしたゴッド・リーですね。あの能力は絶対にやりたかったんです。ミイデラゴミムシはインテリジェントデザイン説という、進化論反対派の人たちの反論理由にもなっている虫なんです。だって、体内で過酸化水素とハイドロキノンを合成して爆発させるんですよ! 進化論でそんなのありえないでしょって言われているくらいです。バグズ一発目のキャラクターということで、橘先生も気合を入れたデザインにしてくれました。僕も印象に残っていますね。

――物語を作る上で意識していることはありますか?

物語作りは最終的にキャラクターだと思っています。最初は半分モブのつもりで出したキャラクターのことが、描いているうちにわかってくることがあるんですよ。ああ、こいつはこういうやつだったんだとか、良い奴じゃん! とか。そういうときは描いていて面白いなと思いますね。

――キャラクターが勝手に動き出すということでしょうか。

そうですね。ただ、それによってストーリーが変わったりすることはありません。人気が出たから殺すとか生かすとかではなく、予定通り死んでいきます。ストーリー自体はもう決まっていて、そのストーリーに必要なキャラクターを出していきます。

――今後の展開も楽しみにしています。アニメから興味を持って単行本を買われる方も多いと思います。ファンにメッセージをいただけますか。

同梱のOVAで第1部をやってしまうという特殊な売り方ではあるのですが、実はアニメの1話を見逃しても、そんなに難しい話ではありません。ぜひ純粋にエンターテインメントとして楽しんでいただき、本を買うきっかけになればうれしいですね。

――最後に、ゴキブリは好きですか?

マジで無理です! 資料とかも遠ざけながら読んでいます!

アニメ化が決まり、絶好調の『テラフォーマーズ』。今後の展開にも期待できそうだ。

(C)貴家悠・橘賢一/集英社
(C)貴家悠・橘賢一/集英社・Project TERRAFORMARS