トークセッション「ものづくり2.0ーーハードウェアの思想が社会を変える」が8月1日、渋谷ヒカリエで行われた。東急電鉄・渋谷ヒカリエと文化批評誌『PLANETS』(主宰・宇野常寛)のコラボレーション企画「Hikarie+PLANETS 渋谷セカンドステージ」の第三弾となる。今、日本のものづくりはどうなっているのか、食器から家電、自動車まで幅広く取り上げられた同イベントの様子をお伝えしたい。
ものづくりの未来を考える
今回の出演者は、Cerevo代表取締役の岩佐琢磨氏、脳波で動く"necomimi"開発者でフリープランナーの加賀谷友典氏、MTDO inc.(エムテド)代表取締役の田子學氏、デザイナー・クリエイティブコミュニケーターでzung design代表の根津孝太氏、評論家で『PLANETS』編集長の宇野常寛氏だ。司会はニッポン放送アナウンサーの吉田尚記氏。
日本のものづくりの未来を考えることをテーマとした同トークセッションでは、家電ベンチャーなど、新しいタイプのメーカーによるムーブメントを中心に、出演者それぞれの取り組みを紹介し、その後議論を展開する形で進められた。
ものづくりはパーソナルな単位へ
まずは宇野氏による今回のコンセプト説明。
宇野氏「"メーカーズムーブメント"というものが今世界中に広がっていると。大企業の大量生産から、もう少しものづくりというものがパーソナルな単位に落とし込まれていて、その背景にはインターネットのビフォーアフターがある。しかしこの世界的な広がりというのは日本においては特殊な受け止められ方をすることが多くなってしまう。
ここにいらっしゃる方々は、かなりのパーセンテージで大企業から"脱藩"された方々ですね。その中でどう日本におけるメーカーズムーブメントを展開していくのか? と問いたいですし、製品ベースで話していくと、かつて日本が誇りに思っていたものづくり、トヨタの車などのように、世界に広がっていって、ライフスタイルまで決定してしまうようなものは"ものづくり2.0"から出てくるのか、あるいは出てくるためには何が必要なのか、そういった議論をしていければと思っております」
充実の自己紹介
続いて、各出演者がそれぞれの仕事について説明する形式で自己紹介を行った。
根津氏「私はトヨタ自動車に10年くらいおりまして、"脱藩"しましてですね。その後、約10年弱くらい自分でデザインの会社をやっています」
大きい電気バイクや、トヨタとのプロジェクト、ミニ四駆などおもちゃを作ったエピソードも紹介。特にミニ四駆については「ユーザーが改造するところがお客さんとの距離の近さという意味で面白い」とコメント。ミニ四駆を実写にしてみるという試みもしているという。司会の吉田氏は、「写真で見ると、ミニ四駆か実車かわからないですね」と感想を述べた。
根津氏「プロダクトを作って終わりではなくてプロダクトを使って何ができるかとか、プロダクトを中心にしたコミュニケーションやコミュニティづくりにも興味があって、オフィシャルではないものも含めてやってます」
次はフリーで働き続けているという加賀谷氏が自己紹介。newrowearのミッションとして「テクノロジーで新しいコミュニケーション体験を作る」ということをやってきているという。同氏が開発した脳波で動く"necomimi"を実際に取り出して説明。
「言語に依存したコミュニケーションは、普段我々がメインで使っているものだと思うんです。一方で言語によらないコミュニケーションもあると。声色だったり顔色だったり、さまざまなジェスチャーだったりといった、非言語なコミュニケーションがありますよね。われわれ実は、そういったさまざまな情報というものを持っているのにまだ使っていないんじゃないかなと考えたんです。それで、脳波を使ったコミュニケーションを体験したことないかと思って"necomimi"を作ったんですね」
生態信号を使って外部のものをコントロールしようとは余り考えてなく、まわり外界が察して動いてくれるようなものやサービスを作っていきたいという。目的としているのは「人類全体のハピネスを増やす」ことを考えていきたいとして活動していると締めくくった。
「"脱藩"と言うか"エクソダス"と言うか」と切り出したのは岩佐氏。
岩佐「"エクソダス組"としては、やっぱり出てきたからには改革をしたいと思っています。僕も元いたパナソニックさんと仕事をしていて、いい関係ではあるんですけれど、それとは別に変革がないと厳しい業界になっているなという認識はしています。そこで家電を改革してやろうということで、2008年から会社をやっております」
IOT専門の会社として、インターネットにつながるハードウェアやウェブ製品を作っているとのこと。純粋にメーカーとして、最後の量産品を自分たちで作って売るというところ「コンセプトは、ネットとハードウェアで生活をもっと豊かで便利にするためだったら何でも作るぞという雑食系の会社で、今目指しているのは全く家電ぽくないものをどんどん作っていこうというところなんですね。スリッパにインターネットが入っていたら面白いだろうとか」
田子氏「僕はデザイナーなんですが、形がどうこうという次元の話をしているのではなくて、システムというか、社会がめぐり巡ってどうなるかという。全部を見据えるには何が必要かというデザインのもとに、最終的にプロダクトがこうあるべきなんじゃないかというのをデザインしています」
この文脈では"脱藩"組という同氏。東芝でエアコンのスリットがなくなるデザインを手がけたことを例に出して自らの仕事を説明。ある一つの現象を読み解くと、「自然に(デザインが)こうならなきゃいけないよね」というものの結果としてのデザインだったという。
最近の例としては、OSOROという食器を紹介。「プリミティブな焼き物ひとつでも世界を救える」というのがコンセプトだ。シリコンを乗せることで密閉できるためラップのゴミを減らすこともできる。それらの結果として、水の消費削減、スペースの有効活用、電子レンジ活用によるCO2の削減、家事時間の短縮が望める。
田子氏「たった一個の器を少し見直して、更にOSOROを使うことで世界を救うというようなことを考えてこれを発表したんですね」
吉田氏は自己紹介を受けて「みなさん、同じ思想でゲームをやろうとしている」とまとめた。前半の最後には、「ポスト戦後のものづくりがメーカーに期待されている」ものの、現時点では「モノが世の中を変える」という状態にはなっていないことを宇野氏が指摘し、議論が交わされた。