山小屋を活用して登山をもっと快適に
筆者は初めての富士登山にあたり、富士山須走口五合目にある山小屋「山荘 菊屋」を利用した。宿泊者は通常200円かかるトイレが無料で利用できるほか(宿泊した山小屋のトイレに限る)、荷物の預かり(無料)、飲用のお湯の提供(無料)、そして、事前予約で夕食(有料)や朝食用に「おむすび」(3個/600円)を用意してもらえる。五合目から宿泊用の荷物を背負わず、富士登山に挑めるメリットは大きい。
富士山では水が貴重なため、山小屋には風呂はない。そのため、山小屋到着後は夕食を食べて寝るだけとなる。筆者たちは19時に山小屋へ到着したが、多くの人はすでに就寝していた。また、山小屋では基本的に男女同室で雑魚寝となるため、耳栓やアイマスクなどを用意しておくといいだろう。就寝用の布団は備えがあるが、標高の高い山小屋を利用する場合は、防寒対策もしておきたい。
なお、富士山では開山期間中、入山届(登山計画書)の提出は必須になっていないが、オフシーズンは入山届が必要になる(様式など詳細はオフィシャルホームページを参照)。登山口に設置された専用ボックスに投函するほか、事前に現地の警察本部へ郵送、FAX、メールで届けることも可能だ。
ご来光は山頂に限らない
出発時刻の3時30分頃、明かりのない登山路ではヘッドライトは欠かせない。7月28日に登山した際、日の出は5時前だったため、本六合目と七合目の間でご来光を迎えることになった。須走ルートは七合目付近まで樹林帯になっているが、木々の間からも昇る太陽を見ることができる。昇ったばかりの太陽を眺めながらの朝食もまた格別である。
場所によるが各合目には山小屋があり、飲食の販売や有料トイレ(200円程度)などを提供している。ドリンクは500円、うどんは900円などと地上に比べて高くなるものの、必要経費として念頭に置いておきたい。また、マスクや軍手などのアイテムも販売している。
樹林帯を抜けると黒い砂礫(されき)のジグザグ道を上る。見上げると「次の合目まですぐ」のように感じるが、実際に歩き始めるとまだまだ道のりが長いことを痛感する。とはいえ、ゆっくり上ることは高度障害対策のほか、かいた汗で身体を冷やさないためにも必要なことなので、マイペースで一歩一歩進んでいこう。
頑張りどころは「胸突八丁」
須走ルートは八合目で吉田ルートと合流する。吉田ルートは4つある登山ルートの中で一番歩きやすく、かつ、新宿から五合目までの高速バスがあるなどとアクセスがいいため、登山者数も圧倒的に多い。この八合目からはにぎやかになり、混雑もしやすくなる。そして、本八合目からは「胸突八丁」と言われる道が続く。急傾斜に加えて空気の薄さを感じる道だ。
先を見ると気が滅入るかもしれないが、ちょっと振り返ってみると真っ白に輝く雲が眼下に広がっており、「ここまで上ってきたんだ」と実感させてくれるだろう。富士山特有の赤い砂礫を踏みしめながら、八合五勺、九合目を越え、いよいよ吉田須走口山頂である。筆者たちは予定より30分早い、6時間の行程で上りを終えることになった。
山頂ではお詣りや記念ハガキを
やっとたどり着いた山頂には、一体何があるのか。実は富士山八合目以上は奥宮境内地になっており、山頂には久須志神社(山頂では「富士山頂上奥宮」と記載あり)や浅間大社奥宮(山頂では「頂上浅間大社奥宮」と記載あり。2014年7月現在は工事中)がある。神社ではおみくじのほかお守りなどもある。全国屈指のパワースポット・富士山ということで、ひょっとしたら願いをかなえてくれるかもしれない。
また、久須志神社から浅間大社奥宮の間には山小屋や飲食も扱うお土産屋などが連なっており、浅間大社奥宮そばには郵便局もある。この郵便局から投函すれば、登頂記念の消印を押してもらえる。なお、郵便局では富士山デザインのハガキや切手も用意している。
山頂で昼食も含めて3時間休憩したら、いよいよ下山。須走ルートでは、本八合目まで下山専用ルートとなる。また、須走ルートは途中まで吉田ルートと一緒のため、分岐点では赤で示された須走ルートを選ぶようにしよう。下りでは勢いでスムーズに進めてしまうが、知らない間に体力を使い果たし、いきなり身体が動かなくなるということもある。下りでも定期的に水分補給をしながら、オーバーペースに気をつけたい。
須走ルート名物「砂走り」
七合目からまた下山専用ルートとなるが、須走ルートならではなのが七合目から始まる約3㎞の「砂走り」である。その名の通り、足首まで砂に埋まってしまう砂の上を、砂ぼこりを舞い上がらせながら進むことになるので、須走ルートではマスクやアイウエアのほか、砂や砂利の侵入を防ぐスパッツが必須となる。筆者は装着し忘れていたが、バックパックを覆うザックカバーをしていないと、バックパックが砂まみれになってしまうので注意しよう。
砂走りではスキーのように滑りながら下っていくことになり、慣れてくればちょっとした爽快感も楽しめる。砂がクッションの役割をしてくれるので足への負担は抑えられるが、砂走りの間に雲を越えていくことになるので、前方に注意しながら進むようにしよう。なお、七合目を過ぎると、砂走りが終わる砂払い五合までの下山道にはトイレがない。
砂払い五合に着いたら再び樹林帯へ。途中で上りルートと同じ道を行くようになるが、上りでは暗くて見えなかった景色を楽しみながら歩いてみるといいだろう。そしてもと来た五合目入り口の到着。予定より30分早い、2時間30分で下山することになったが、身体の負担を考えるともっと時間をかけて下山すればよかったように思われる。須走ルートの入り口にある標識には、「富士山山頂 6.9km 310分」と記されていたが、この行程には通常の6.9kmでは決して味わえない感慨深さがあった。
なお、今回は天候に恵まれたためほぼ計画通りに登山をすることができたが、悪天候の場合は登頂を断念しなければいけない場合もある。登山は自己責任において、身の安全を守るようにしよう。
入山料は事前に支払いが可能
個人手配で1泊2日の富士登山を決行するに当たり、かかった費用は以下の通り。これに加えて、登山用品の購入・レンタルや飲食費、また、トイレの利用料金など登山道中に必要となる費用もある。
入山料(保全協力金)に関しては今年より、環境保全や登山者の安全対策などを図る目的で、ひとり1,000円の支払いを受け付けている。入山料は義務ではないが、支払った人には富士山保全協力の証しとして、葛飾北斎の浮世絵をデザインした缶バッジなどをプレゼントしている。支払いはインターネットやコンビニのほか、登山口に配置された係員に支払うこともできる。世界に誇る富士山を後世にも残していくために、自分ができることとして協力していただければと思う。
富士登山にかかった費用
・新宿駅~御殿場駅の高速バス(往復2,980円)
・御殿場駅~須走五合目の登山バス(往復2,060円)
・山小屋宿泊(素泊まりで5,000円 ※山小屋によって異なる)
・入山料(1,000円)
合計1万1,040円
※記事中の情報・価格は2014年7月取材時のもの。価格は税込