今村氏は「私の中では、2014年度のテレビ事業の黒字化はすでに見えている」と語る。「これまで、公約した数字が達成できていないという反省はある。だが、2013年度は250億円の赤字であり、ここ3年の事業推移を見ても着実に構造改革の成果があがってきている。天変地異がなければ黒字化できる」と、黒字化への自信を覗かせる。

しかし今村氏は、「黒字化は通過点であり、ゴールではない。コスト削減の制約があり、こういうコストでモノづくりをしないと、黒字化しないと、という議論も実際にはある。しかし、問題はお客様に対価を払ってもらえる製品なのか、ソニーのBRAVIAが欲しいと言ってもらえるのかということが大切。ソニーらしい製品と思ってもらうことが重要だ」と、事業を推進する上でのゴールは黒字化ではなく付加価値の提供だと述べる。「そうしたことがお客様から認めてもらえれば、黒字化は後からついてくる。黒字化しようと思って事業を進めても、うまくはいかない。商品力を上げることだけでなく、品質管理、広報やマーケティングを通じたメッセージ、それらのベクトルを全て合わせていくことが必要。本当にやるべきことは、ソニーらしい製品を作ることだ」と、一丸となってテレビ事業を推進する姿勢を強調した。

加えて、「私自身、重要だと思っているのは、本質を見失わないことだ。テレビの場合、本質とは映像と音である。新興国では、ローコストの製品が売れると言われるが、月収の何倍も投じてテレビを購入する。しっかりと吟味をして、いいものを購入する。そこで選ばれるのは画質や音質がいいものであり、長年使えるものである。そして、リビングに家族が集まって、リーンバックの姿勢で楽しむツールであるということを忘れてはいけない」と、画質や音質の重要性を語る。

BRAVIAは感動を映し出す窓になる

また、今村氏は社名についても言及。「社名には『テレビジョン』ではなく『ビジュアルプロダクツ』という名称を使った。テレビというのは遠くを映し出す箱という意味の言葉であったが、これからはビジュアルを中心にお客様に新たな価値を与え、体験価値が変わっていくことになる。BRAVIAは感動を映し出す窓になる」と、変わりつつあるテレビの概念を社名に込めたことを説明する。その上で今村氏は、「商品の形や、映し出される映像や音、コンテンツにどうリーチするかといった使い勝手がすべて変わっていく。こうしたことが3年後に起きる。そのときには、テレビが新たな単語を持つことになるだろう。何十年もテレビという言葉が使われてきたが、3年後、あるいは東京オリンピックの前には、ソニーが新たな言葉の定義を作れればと思っている」と語る。

併せて、「ソニー全体に対して、テレビ事業がどれだけ貢献できるかが重要だ。ソニーはユニークな会社で、ソニーミュージックやソニー・ピクチャーズなどコンテンツ事業を持っているのが特徴。ソニービジュアルプロダクツの事業は、新たなテレビ事業や新たなコンシューマー事業の創出にも貢献することになる」と、コンテンツ事業とのシナジー効果についても強調した。

ソニーの平井一夫社長は、分社化によるスピーディな経営に期待する(写真は2013年度第3四半期決算説明会のもの)

今村氏は、分社化のメリットについても言及。「分社化して、私に経営の権限と責任が委ねられた。これにより、今までできなかったことができるようになり、かかっていた時間を短縮してオペレーションや決断ができるようになる」と、分社化による分権化のメリットを説明する。一方で「本社サイドも大きな構造改革のなかにある。エレキ事業の中に占めるテレビのポジションは大きい。この機会を最大限に活用して、テレビ事業を再生するだけでなく、本社、販売部門の改革も進めていく。2013年度第3四半期からは、新興国の動きがあり、事業に大きな影響を及ぼした。舵をもう一段切らなくてはならないという危機感を、第3四半期以降感じていた。そうした中で今回の分社化のディシジョンは正しい判断である」とした。

さらに、2014年度の全世界における出荷計画として掲げている年間1,600万台については、「実現可能な数字だと考えている」とする。しかし「出荷台数は、競合状況によっても変動する。1,600万台という数字は経営計画として出したものだが、台数を減らしてでも収益を目指すか、低価格モデルで台数を増やしていくのかということは柔軟に変動させる。答えはひとつではない」と、市場環境に応じて出荷台数を変更することはあり得るとする。「1,600万台という数字は増減することになり、まずは2014年度の利益を創出することを目指す。売上ありきで台数目標を追うという構造改革はありえない。売上台数、固定費も可能な限り変動化していく必要がある」などとした。

その中で、「販売会社に対しては、必要のないモデルは扱うなということを言っている。『これもやっておこう』という製品は売れない。ヒットモデルは何かを徹底して探り、地域販売会社ごとにメリハリをつけて、強い意思で全体の効率を目指していく」と、売るための姿勢を明確に示した。

ソニー全社が変わる中でリーダーとしての存在を担うのがテレビ事業

ソニーは4Kテレビ市場において高いシェアを持つ(写真は85型4Kテレビ)

今村氏は「新会社は、テレビおよびその周辺機器の開発、設計、製造、販売事業を行う会社となり、本社機能に集中した最小単位となる750人でスタートする。テレビ製造販売の厳しい事業環境および環境変化に対応し、柔軟かつ素早いオペレーションを自律して行う会社だ。4Kを中心とした高付加価値の商品を市場投入することでテレビ事業の収益改善と、ソニーの業績回復を目指す」と、語る。「ソニーは、2014年度にエレクトロニクス事業の黒字化に対して不退転の決意で取り組む。ソニー全社が変わる中で、テレビ事業はリーダーとしての存在を担うだけでなく、テレビの新たな事業スタイル、新たなコンシューマの事業スタイルを作っていくという姿勢で取り組んでいく」と、厳しい事業環境にあってソニーグループ全体に貢献しうる存在を目指す意向を示した。

さらに技術面での姿勢についても言及。「技術の進化や道筋をブレさせないということは非常に重要である。トリルミナスなどの技術についても、これを広く展開できなかったという反省がある。新たな技術をいかに普及帯に持っていくかも大切なことだ。技術部門が2年先の技術をどのように仕込むか。そして、それを連続性がある形でどう提供していくかも大切。ウォークマンの第1号機が登場したとき、技術陣はすでに第3世代目の技術を考えていたという。そうした準備をしていることが、ブレない技術としてのメーカーの主張につながる。価値ある技術を仕込み、決めた軸はブラさないということをエンジニアに提案している」と、先を見据えた技術力の醸成が重要であることを語った。

有機ELテレビに関しては、「今、液晶技術は止まっているわけではない。だが、画像のきらめきや、色再現技術といった点で、有機ELが優位性を発揮できるところもあるだろう。有機ELについても、すべての可能性を否定しているわけではない。研究開発は行っている。商品化する場合には、は正しい時期に表明できるようにしたい」と述べた。