―― 28%というLED電球の普及率については、頭打ち感のようなものを感じていたというわけですね。
西浦 どうしても、アーリーアダプター層の購入が一巡した時点で、一度伸び率は鈍化しはじめます。LED電球はそうしたタイミングに入ってきた。「経済性」という観点だけでLED電球を購入していただけるお客様には、ほぼ行き渡ったのではないかと考えています。つまり今後、普及率を高めて行くには、省エネや長寿命という価値に加えて、新たな価値提案が必要になってくる。スイッチひとつで灯りを切り替えられるというのは、技術的にはすぐに可能でした。
しかし、それを価値として認めてもらえる提案はなにかということが大切。単に明るい、暗いに切り替わるだけでは価値がありません。では、切り替えたときにお客様がメリットを感じるものは何か? そこで行き着いたのが、明かりによって生活をより楽しく、安心に過ごせるといった提案だったわけです。明かりを切り替えると、食事をおいしく食べることができ、また切り替えると、ダイニングで勉強するのに最適な明かりとして提供できる。ライフスタイルに刺さる提案を加えることで、生活を豊かにすることができるわけです。LED電球にはリモコンで操作したり、スマートフォンでコントロールするという提案もありますが、どうも迷走感がある。生活シーンでよりメリットがあるものは何かということを考えると、光の質が一番だという結論に至りました。これをしっかりと明確化して、お客様にご理解をいただくことが大切だと思っています。
そして、パナソニックが提案するのであれば、エビデンスもしっかりと取る必要がある。お風呂のくつろぎ感を提案するのであれば、数値としてくつろぎを実現できることを証明することが必要です。そして、それを使うことのメリットをストーリーとして提案する。一灯二役というだけでなく、それがどんな意味を持つのかを提案したい。中途半端な提案ではなく、社会を変えていくような、しっかりとした地に足のついたステップを踏んでいきたいと考えています。
―― 「明るさ・光色切替えタイプ」の普及戦略において重要な点はなんでしょうか。
西浦 光を変えることで、生活を楽しむという文化はまだ浸透していません。これを浸透させる活動が必要だと考えています。シーンによって明かりを変えることでの喜びを生むということに対して、多くの人はまだ半信半疑だと思います。しかし、やってみると、メリハリの効いた生活ができる。この明かりは勉強のための明かりだよ、といえば、それで勉強することに没頭できる。光の質と人間の心理というのは、想像以上に相関があるんです。それを既築の住宅でも、ランプさえ変えたら実現できる。まだ多くの人が気がついていない「快適な空間づくり」を、この商品で提案していきたいですね。
チップが生み出す光の点を、照明というアプリケーションの形に仕上げていく
―― パナソニックの2014年度のライティング事業のポイントはなんですか。
西浦 経済性の訴求だけではない新たな価値を提案していくというのが2014年度の取り組みになります。その新たな価値は何かというと、光の質にこだわることで、用途に応じた使い方、快適な使い方ができることを提案していきたい。LED電球だけでなくLED照明器具でも、肌がキレイにみえるといった光の質を提案し、それを多くのお客様に認識していただきたいですね。LEDは、技術というよりも、マーケットに近いところでの発想やコンセプトづくりが顧客価値向上につながる可能性が高いと商品だといえます。生活スタイルから困りごとをみつけて、それを解決するためにLEDは、何ができるかを突き詰めていきたいと思っています。
―― パナソニックは、2015年度にLED事業で2,000億円の事業規模を目標に掲げていましたが。
西浦 ライティング事業の2013年度の売上高は3,225億円。そのうち、LEDの販売比率は半分を超えつつあります。その点では、軌道に乗っているといえます。だが、蛍光灯など既築の住宅に使われる「光源」についてまだLEDは35%程度。丸管に変わるLED商品がないですからね。しかし、新築住宅に設置される器具では徹底的にLEDを品揃えしていますので、7割以上はLEDになってきています。LED化率は加速しています。
―― 一方で海外展開の成果はどうですか。
西浦 LEDの海外展開はまだまだ成長の余地があります。特に、光源のビジネスを伸ばしたい。光源で突破口を開いて、器具で展開していくといった展開を考えています。LED光源の海外売り上げ比率は10%程度ですが、2015年度にはグローバル比率を20%程度にまで拡大したいですね。中国や欧州、トルコなどにもついても、重要な市場に位置づけて取り組んでいきます。
―― パナソニックのLEDの強みを説明してください。
西浦 パナソニックは、LEDのチップそのものは外部から調達しているわけですが、それを商品に作り上げていく上でのノウハウを持っていることが、パナソニックの強みだといえます。たとえば、放熱対策のための機構設計のノウハウや、いかに小型化していくかといったノウハウは、長年に渡る照明ビジネスの蓄積によるものです。チップが生み出す光の点を、照明というアプリケーションの形に仕上げていく上でも、経験値は強みのひとつだといえます。
快適性や利便性といった点では、ソフトウェアが大切。同じ明るさでも光の照らす分布を変えるだけでも、光の質は変化していきます。そうした評価技術も持っている。パナソニックが照明を開始してから積み上げたノウハウ、インフラ、そして人材が強みとなります。
さらに、販売ルートという点でも、コンシューマールートや電材ルートといったように、住宅用だけでなく、施設用、店舗用などのすべての照明を流していく販売ルートを持っている。パナソニックのAVC技術や家電商品との連動、建材と照明が一体になるといった提案もできる。さらに、自動車のヘッドライト事業も回路を持つ強みと連動した提案ができます。特に、ヘッドライトが最たるものですが、LEDによってデザイン革命につなげていくこともできる。そうした"オールパナソニック"が持っているビジネスとの親和性があるという強みもあります。
―― 現在、パナソニックのLED電球のシェアはどの程度ありますか。
西浦 販売数量で約4割、販売金額では約半分といったところだと見ています。来年度には販売数量でも半分を目指したいですね。ただ、低価格モデルを増やして、シェアを追うというようなことはしません。そこはパナソニックの事業領域ではないと思っています。あくまでも、付加価値のところで戦っていきたいと考えています。