青森は知る人ぞ知るご当地グルメ天国。古川市場の「のっけ丼」をはじめ、「黒石つゆ焼きそば」「八戸せんべい汁」など地域色の強いものが多いのが特徴だ。しかし中には「ん??」と頭にハテナマークが3個くらい出てくるメニューもある。それが「味噌カレー牛乳ラーメン」だ。
ちまたでは、味噌ラーメンもカレーラーメンもそれぞれが人気メニュー。店こそ少ないが、牛乳(ミルク)ラーメンもなくはない。それをまとめてひとつのラーメンにするとはちぃと盛り過ぎなんじゃないの? とはいえ、食べずにアレコレ書くわけにもいかないので、その味を実際に体験しようと青森に向かった。ちなみに、「青森味噌カレー牛乳ラーメン普及会」の会員店は現在5店。いずれも、味にこだわる本格至高の店である。
北海道のラーメン店が青森で発展させた味
まず足を運んだのは、「味噌カレー牛乳ラーメンを食べるならまずココ」と教えられた「札幌館」だ。…え? 札幌? ここ、札幌ラーメンの店? 青森名物なのに? まあ四の五の言わずにまずは注文してみよう。「味噌カレー牛乳ラーメン」は1杯820円だ。
待つことしばし、筆者の前に出てきたのは、やっぱり(見た目)札幌味噌ラーメンだった。なんだよと思いつつ、ふとスープを見ると、いやいや。どうも普通の味噌ラーメンより白っぽいぞ! ついでに言えば、少しカレー風味の黄色がかっている。明らかに似て非なる一品だ。
まずはスープをひと口。札幌ラーメンを言うだけあり、アツアツだ。ああ、確かに牛乳のマイルドさと味噌の味わい、そしてカレーの風味が加わる。カレーといっても辛くない。ちぢれの中太麺にスープがよく絡み、ズルズルと豪快にすすれば味噌とカレー、牛乳の渾然一体となって口の中に入ってくる。ともすればマイルドになりそうなこの味に、コクを加えているのがバター。つまり、ホントは「味噌カレー牛乳バターラーメン」なのだ。
「うちは牛乳を常に熱くして、しかも多めに入れてるからマイルドなんです」と店を切り盛りする小田島敏也さん。加えて、「コクの出るバターが味の決め手ですねえ」と言う。味噌ダレには、一味など8種類もの調味料を入れているのだとか。
ちなみにこのラーメン、小田島さんの亡くなった義理の弟、札幌館の初代店主である佐藤清さんが考案したもの。「私も義理の弟も、北海道の出身なんですよ」と小田島さん。小田島さんによれば、小田島さんや佐藤さんは、もともとは北海道でラーメン店を出していたそうだ。その時代に、既に味噌カレーラーメンはメニューにあった。それが青森に店を出すことになって店を訪れた高校生のアイデアから生まれ、青森で発展してきた味なのだという。
●information
札幌館
青森県青森市石江岡部56-3
昔からの味を守り続ける店
次に行った店は、札幌館の元従業員で現在は自分の店を構える「味の札幌 大西」だ。まずは自慢の「味噌カレー牛乳ラーメン」(830円)を食してみた。味はうん、確かに札幌館と近い。でも、やっぱり店独自の個性が感じられる。カレーの風味とバターのコクがきいていて、あつあつを一気にすすった。
店主の大西文雄さんに話を聞いて驚いた。大西さんは佐藤さんが札幌のラーメン横丁で「漫竜」と言う店を出していた時に、そこの超常連だったというのだ。
「佐藤さんが札幌から出て店を出すというので、てっきり東京のことだと思っていたんだよ。私は当時、スバル360(1958年から1970年まで生産されていた国産車)を売っていたセールスマンで、一緒に働いてくれて言われたんだけど断ったんだ。でも、内地で店を構えたっていう佐藤さんが後で迎えに来たので、一緒に働き始めたんだ」。
大西さんによれば、北海道で内地といえばほぼ東京のことを指すという。しかし、大西さんが連れられていった内地とは、なんと青森だったのだ。「大西さんは東京に行く時、青函連絡船で青森に着いて、青森で飲んでる内に東京行きの列車に乗り遅れ、結局、青森で店を出すことにしたんだよ」と、ドラマのような展開を経て青森に店を構えたという。
大西さんが迎えにきたのは、それからしばらく後ことだ。「てっきり東京に行くと思ったら青森に連れて来られちゃったんだ」と大笑いする様が豪快である。そんなこんなで大西さんは、昭和44年(1969)から札幌館で働き始める。そして平成3年(1991)に独立し、「大西」をオープンしたというのだ。
「うちはとにかく昔からの味を守ることがモットーなんだ。なんぼおいしくなっても、味が変わったら今まで食べてきた人は納得しない。そこに気をつけているよ」。
●information
味の札幌 大西
青森県青森市古川1-15-6 古川パークビル1F
白ゴマが香る優しい一杯
青森で味噌カレー牛乳ラーメンは、「札幌館」ののれん分けを中心に5軒で提供されている。最後に足を運んだのは、その中でも独自の味を追求する「札幌ラーメン蔵」だ。店主の高橋恵三さんによればベースの味噌は独自の配合で、麺は「少し細めの玉子めん」だそう。「味噌カレー牛乳ラーメン」は800円で、トンコツは血抜きして不要な脂を取り除くなど、丁寧な下処理をして作っている。
だから、「あっさりしていてお年寄りでも食べられる味なんだよ」と高橋さん。食べてみると、なるほどこれは食べやすい。バターに加え振り掛けられた白ゴマの風味が、味のアクセントとして心地いい。
●information
札幌ラーメン蔵
青森県青森市羽白字沢田796-1
名前だけ聞くとギョっとするが、食べてみると意外な発見がある「味噌カレー牛乳ラーメン」。出張や旅行などでチャンスがある時は、ぜひ挑戦してみてほしい。
※記事中の価格・情報は2014年5月取材時のもの。価格は税込