子役として活躍の場が広がると、次第に"天才子役"と呼ばれるようになる。芦田愛菜もその一人。2010年の『Mother』(日本テレビ系)で注目を集め、映画『ゴースト もういちど抱きしめたい』で第34回日本アカデミー賞の新人俳優賞を受賞し、2011年のNHK大河ドラマ『江~姫たちの戦国~』にも抜てき。同年の『マルモのおきて』(フジテレビ系)で連ドラ初主演を飾り、共演した鈴木福と共に人気を不動のものとした。
その後も、2012年に第54回ブルーリボン賞を史上最年少で受賞し、翌年には映画『パシフィック・リム』でハリウッドデビュー、2014年は『明日、ママがいない』(日本テレビ系)でドラマ単独初主演を果たすなど、今年で10歳を迎える女の子とは思えないほどのキャリアを築き上げてきた。そんな彼女が、初の単独主演映画に挑んだのが6月21日に公開を迎える『円卓』。すごみのある関西弁で吠えながら、孤独にも憧れるという難役"こっこ"を全力で演じている。
原作は作家・西加奈子氏の同名小説。狭い団地に暮らす8人家族の円卓を囲みながらの日常生活を描きながら、末っ子で小学3年生の"こっこ"こと琴子の内面にスポットを当てる。こっこは気になった言葉や初めて知ることなどを"じゃぽにか(ジャポニカ自由帳)"に書き留めて大切にしていたが、ある日そのノートを紛失。"言葉"と向き合っていく。
行定勲監督はこの本を手にとり、「世の中に広めたい」と映画化へと突き動かされる。東日本大震災後に抱いていた違和感。"イマジン"することの大切さを伝えるために、芦田愛菜に白羽の矢を立てた。なぜ、この物語に"芦田愛菜"が必要だったのか。そして、行定監督が見た本当の"天才子役・芦田愛菜"とは。監督の話から、イメージの内側にある真の姿が次第に浮かび上がる。
――芦田さんに注目しつつ最初は見ていましたが、それ以上に世の中に伝えるべきメッセージが込められています。自分でも「まだまだだな」と思わされた作品でした。
僕もまだまだだなと自分で思いました。この原作に教えられたことを、もっと世の中に広めた方がいいだろうという気持ちなんです。脚本の伊藤ちひろさんが西(加奈子)さんの本を偶然読んで、ちょうど震災直後だったんですけど、「われわれが今、一番大切にしなければいけないことがこの中にはある」と言われたんです。
子供が主役の映画は前にも撮ったんですが。この子の物語にどんな魅力があるのかと読んでみたら、何だか救われたんですよね。これはおっしゃったとおり、大人が見なきゃいけないものだと。今の大人たち、政治家も含めて言葉がちょっと暴力的だと思いませんか。これは言葉を学んでいく話です。ジャポニカ学習帳に言葉を書き留めていた女の子が主人公なんですが、ある日そのノートがなくなります。
書いていたことを心の中で思わなければいけなくなる、つまり"イマジン"していかなければならなくなると、書いていた言葉が違うようなものに見えてくるんですね。例えば、「こどく」という言葉をかっこいいと思っていたのが、実際にそうなってみると思っていたのとは違う。相手の気持ちになって考えていくと、違う感情に出会い、最後には違う言葉を用意して使うようになります。言葉の成長、それはすごく重要なんですよね。
――大人たちの言葉が暴力的と感じるのは、どのような時ですか。
政治家の方々の言葉を聞くと、国民の立場になって考えているんですかと思うわけです。被災地に行ってから仲良くなった方がいるんですが、「みんな絆って言ってるけど、その絆の中に私たちは入っているのかな?」って言われたことがあって。ありがたさも感じながら、そういう温度差も感じているそうなんです。それを聞いて、自分の行動にブレーキがかかったんですよね。
受け入れてくれるから、被災地に行ってたわけですが、僕も心のどこかで思っていた違和感だったんですよね。彼らは今それどころじゃないのに、たくさんの中継カメラが行って。忘れられることがよくないんだと言う人たちもいるけど、普通なら人一人が亡くなった時に、みんな「気の毒に」と思い静かにそっとしますよね。
だから、どう向き合えばいいのか分からなくて、前に進めなくなっちゃったんです。この作品は、東日本大震災がなければ映画にしなかった作品なのかもしれません。抱いていた違和感は"イマジン"という言葉で少しだけ解消されました。相手の立場になって考えたらどうすればいいのか。
――それだけの思いが詰まった作品。主演が芦田さんじゃなければならなかった理由は何ですか。きっと起用される前は「彼女のイメージ」しかなかったと思いますが。
こういう映画だからこそ、多くの人の心に残ってほしい。その力がある人間がまず誰なのかを考えた時に、もう「芦田愛菜」しかいませんでした。卓越した演技力は定評があったわけですが、こういう役はやってないと思いながらプロフィールを見ると「兵庫県出身」と書いてあるわけです(笑)。だからこれは、この子のためにある作品だと思いました。しかも、役柄と同じ小学校3年生。普通だったら、セリフをしっかり覚えられる小学校5年生くらいの子を使って演じさせるんですが、この子は別。むしろ、周りの子たちを4年生、5年生にしているんですよ。そうじゃないと、彼女とバランスとれない(笑)。彼女がどれだけ卓越した才能の持ち主か、分かりますよね。
――同世代の子役との明確な違いはどこにあるんですか。
考え方から何から何まで、全部違います。ほっとくと子どもです。「怖い話してください」って言いながらおどけたりしますからね。「天才子役」の型にはめて、そういう子どもっぽさがないと思い込んでいる方がいますが、彼女はいたって普通の子ども。だけど、彼女はすべてを分かっています。与えられてやらされている感じがないんですよ。やりたいんです。脚本の感想を聞いたら、「今までに読んだことがないような話なんで楽しみです」って言うんです。
本を読むのが大好きらしくて、マネージャーさんがオファーのあった作品の脚本を読んでいると、「それ私の作品ですか? ちょっと読ませてください」と言って持って行こうとして、まだ決まってない作品でも、「決まってなくても読みたいです!」と(笑)。本を読むのが好きで文字を読むのが好き。まさに、"こっこ"そのものですね。
本を読んだ感想を、「めちゃくちゃ面白かったです。私はこういう話をやったことがなくて。こっこちゃんは考えていることが変ですよね。変なことばっかり考えているから、それを想像したらすごく笑えました」みたいに言ってたんですけど、この作品を演じられるのは、5年生や6年生くらいがやっとだと思います。ポスターの表情も特に指示したわけではなくて、彼女が勝手にやったことなんですよ。