エプソンのウェアラブル機器に共通しているのは、いずれもエプソン独自の技術がベースにあるという点だ。

ひとつは、「圧倒的に高精度」と碓井社長が語るセンシング技術だ。エプソンでは半導体技術、水晶デバイス技術などの強みを生かした自社開発のモーション、バイタル、ポジションセンサーを活用。高精度で運動情報や位置情報、正確な脈拍の測定が可能だ。

今年中に発売予定のPULSENCE

高精度で脈拍を測ることができるとして。メタボ対策向けに健康保険組合から高い評価を得ている

2つめはシースルー型のスマートグラスで採用したマイクロディスプレイ技術。これは13年連続世界ナンバーワンシェアを持つプロジェクタの技術を生かしたもので、新開発の自由曲面プロジェクションレンズ、自由曲面ハーフミラー、自由曲面シースルー導光板といった光学設計、製造技術で実現した曲面多用型の部品と、高温ポリシリコンTFT技術による超小型、超高精細の液晶技術をベースにしたものだ。

3つめには、電子ペーパーデバイスである「スマートキャンバス」や、世界初のGPSソーラーウォッチ「セイコーアストロン」、機械式時計「オリエントスター」などで培った省、小、精の技術である。小型、軽量、細緻なデザインと、快適な装着性を実現。これをウェアラブル機器に応用しているという。

そして、クラウドもウェアラブル事業には不可欠な技術と位置づけ、2011年からプリンティング分野でサービスを開始したEpson Connectも、今後のサービス拡充によって、ウェアラブル機器と連携することになる。

「高精度センサーを搭載したウェアラブル機器が装着者のデータを常に高精度で取得し、これをクラウドを活用したセンシングデータプラットフォームにおいて、精度の高いビッグデータの蓄積をもとに、健康、スポーツなどの専門家の知見を組み合わせて分析し、アドバイス生成を行う。さらに、分析結果などをスマートグラスにわかりやすく表示し、健康やスポーツにおける目標達成に向け最適なアドバイスを届けるといったように、ウェアラブル機器だけでなく、プラットフォームを一体化して提供するのが特徴」とした。

電子ペーパーを使用したスマートキャンバス

また、碓井社長は、「エプソンは、時流に乗って付け焼き刃でウェアラブル事業をやっているのではない。世界初のウェアラブルの先駆けを、ウォッチルーツとして、世の中に数々送り出してきた実績がある」と切り出し、「1969年には世界初のクオーツウォッチ、1982年にはテレビウォッチ、1985年にはリストコンピュータを投入した。これらはエプソンが持つ省エネルギー、小型化、高精度を実現する省・小・精の技術によるものである」とした。

また、「GoogleやAppleもこの分野には参入し、さらに競争は激しくなるだろう。だが、エプソンのものを使いたいと思える製品を必ず作る。センシングでの測定には限界があるが、それを超えてセンシングできる領域に達したときに驚きがある。エプソンは、それを一番先に実現する準備をしている。また、ウェアラブルは常に身につけている製品であり、持っていることが誇らしく思える価値観を持ち、感性に訴える製品を投入する。それをプラットフォームとして実現できるからこそ、エプソンはこの分野に参入した」と強い自信をみせた。

拡張現実との組み合わせで、エアコンの修理箇所や方法をスマートグラスに表示して作業ができる

同社によると、全世界のウェアラブル機器市場は、現在、約4,000万台強の市場規模だと見ているが、2016年度には9,000万台の市場規模が想定されており、3年で約2倍に成長するという。

「モバイル化、クラウド化、ビッグデータ活用などの社会インフラの変化に加え、新興国でも個々の趣味や興味の多様化といったライフスタイルの変化が見られている。いつでもどこでも情報を入手できるなか、自分にとって価値ある情報を得て、よりよい生活を送りたいということが、ウェアラブル機器普及の背景にある」と碓井社長は説明する。

「スマートグラスを例にとると、まだまだ一歩足を踏み出したところ。最終的に違和感なくグラスをかけられるところがゴールとなるだろう。だが、最初の製品が受け入れる市場が確実にあり、次の製品を開発するためにフィードバックをかけられる。市場に製品を出しながら、開発を加速していく。研究室のなかで究極の製品を作ろうとしてもうまくいかない。マーケットと対話しながら究極の製品を作り上げる」と、ウェアラブル市場開拓に向けた姿勢を示した。

1969年に発売したクオーツアストロン 35SQ

1982年に発売したテレビウォッチ

1985年に発売したリストコンピュータ