恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表の清田隆之さん

文化系トークラジオLifeのサブパーソナリティの斎藤哲也さん

西森さん「紗絵子さんって漫画が結末を迎えた後、どうなると思いますか? 生活とか」

川原さん「女子力と人間力と分けて考えた時に、紗絵子さんは女子力を磨いて人間力みたいなところは重視してこなかった人だと思います。旦那さんとの何が齟齬になってるかというと、旦那さんは紗絵子さんを女子としてしか見ていないんですよ。旅行に行きたくてもそんなことは専業主婦のやっていいことじゃないみたいに言われたり、DVで傷をつけられてもおまえはもう俺のものなんだから関係ないだろみたいな言われ方をしたり。所有物のように、人間扱いされない。

今までの物語だったら、そこで人間力に目覚めて荷物をまとめて独り立ちをするための準備をするわってなるのに爽太のところ行っちゃうんですよね。そこで恋愛ループ、女子力ループに帰っちゃう。

女子大生って紗絵子さんみたいな専業主婦の生活を夢見ている人が多いわけでしょうか」

白河さん「紗絵子さんみたいな生活を夢見ているというよりは、やっぱり外で働くのが、今の環境がきびしすぎるじゃないですか。だから裏返しとして外で働くのがあまりにつらいから家にいたいと思う消極的選択なんです。逆に女性が働くことは新鮮なことではなく、逃れられない苦役にも思えるんでしょう。

『東京ラブストーリー』の赤名リカの頃は、働く女、しかも総合職で男と肩を並べて働く女ってまだまだ希少価値があったので、輝いて見えたんですよね。いわゆるキャリアウーマンっていう存在が。だけど今は逆に専業主婦にみんな憧れるけどなれない、数の希少さで逆転しちゃった気がします。

トレンディードラマの星と言われたフジテレビの大多亮さんが『バブルが崩壊してかっこいいキャリアウーマンドラマもなくなって家族ものとかに走っちゃった。僕たちは彼女たちを持ち上げるだけ持ち上げて結局はしごをはずしてしまった』っていう反省を語られていたんですよ。

『東京ラブストーリー』はひょっとしたらそのはしごを外される直前で、赤名リカがああいうふうな結末になったのが、はしごをはずされること始めなのかなあとちょっと思いました」

西森さん「今はしごをはずされそうになっているのは、キャリアウーマンじゃなくて専業主婦なんでしょうか」

白河さん「うーん、常にテレビは女性のはしごを外し続けてきた気がします」

西森さん「まあ、フィクションで夢物語だからこそ、しかたないんですよね。女性の中でこういうものが見たいとかこういうものに憧れるというものに向き合わないといけないものですし。それにしても、ワンクールワンクール、視聴者の意見に左右されて企画を作ってる感じが今すごくあるじゃないですか。もちろん、そこから脱却しようとしている企画もありますけど」

斎藤さん「この3作品に限って言うと、はしごの掛け方も実は中途半端だったんじゃないでしょうか。というのも、どの作品も結末的にはわりと保守的な価値観が勝利するような感じで終わってる。『東京ラブストーリー』で結局カンチはさとみのところに行っちゃうわけですよね。それで赤名リカはひとりで生きていかなきゃいけないと。最後に勝つのはさとみなんですよね。『やまとなでしこ』も最後は女の子のほうが彼を追いかけてアメリカに行くし、『失恋ショコラティエ』に至っては最初から女子力最強みたいなことになっているし、紗絵子はDV男のところまでわざわざ帰ってきちゃうわけですよね」

白河さん「紗絵子が最後にDV男のもとに帰ったっていうのは古い価値観を踏襲しているというよりは、女性により余裕がなくなってると思います。『やまとなでしこ』の2000年にはまだ"貧乏でもいいわ、純愛を選ぶ"っていう純愛こそやっぱり尊いっていう価値判断があった時代なんですけど、紗絵子は大して愛してないけど旦那のもとに帰っちゃうんですよね。この10年の"より追い詰められ感"みたいなのがすごく気になったんです」

川原さん「今まさに大して愛してもない夫のところにっておっしゃったけど、今って愛の内実みたいなところまで描いちゃってるな、と思います。『東京ラブストーリー』でも、『やまとなでしこ』でも、ハッピーエンドとして結婚が描かれていた。でも紗絵子さんって途中で結婚してるんだけど本当に幸せなのかな、っていうところまで描いていて、幻想がなくて"荒野に立ってる感じ"っていうのが今っぽい」

白河さん「サバイバルなんですよね」

川原さん「そうなんですよ。これは原作マンガもですが、爽太も、紗絵子さんのことを好き好き言うけど、それは結局俺の仕事のミューズであって、無自覚だけど都合の悪いところは見たくない。つまり、あなたが愛って言ってるものって、俺に都合のいい妖精さんでいてほしいだけで、エゴでしょう、とかそういうことまで見抜いて、描かれてる感じ。紗絵子さんのあれほどの努力がこんなんなっちゃうのかと思うと、女の人生無理ゲーすぎて吐きそうです(笑)」