初の外洋実験で有用性を確認

呉市の実験で出た課題は、「異なる周波数、アンテナ特性での評価の必要性」「迅速な対応を実現するための使用機材の小型化」「運搬・設置に関わる訓練、公的機関を含む関係機関との連携の必要性」といったもの。

その時は800MHz帯の周波数帯を使い、指向性アンテナを用いてエリア化を行っていたため、今回は2.1GHz帯を使って、無指向性のオムニアンテナによる実験が行われた。使用機材は、今回の実験に小型化が間に合わなかったため、前回と同じのものが使用された。ただし、すでにバッテリーを小型化し、衛星アンテナを従来の120cmから60cmにした小型のものを用意しており、今後さらに開発を進めていく。

今回の船上基地局のシステム概要

訓練・連携では、鹿児島県の総合防災訓練に合わせ、海上保安庁と設置訓練を行い、実際の運用を見越した取り組みを行った。こうして課題を検証したのが、今回の実験だ。

実際の実験では、鹿児島港で海上保安庁鹿児島海上保安部の巡視船「さつま」にオムニアンテナや基地局、衛星アンテナといった機材を積み込み、使用可能な状態に船上に設置して出港。佐多岬を回って大隅海峡へ移動し、南大隅町沖で電波を発して実験が行われた。

さつま船上に設置された衛星アンテナと基地局

背面

実験は3つのパターンで実施。1つ目は佐多岬から稲尾岳沖で回頭して早崎沖までを約17ノットの速度で航行。2つ目は同じルートを安定速度(今回は約15ノット)で航行。それぞれ常時電波を吹きながら航行し、陸上の測定ポイントでの音声通話状況を計測した。3つ目は測定ポイント沖で旋回運動をしながら電波を吹き、測定ポイントで計測を行うというもの。測定ポイントは、津波の避難場所を想定して高台に設置した。

こちらは2.1GHz帯のアンテナ

その結果、いずれのパターンでも音声品質は良好だった。計測は受信レベルの測定と実際の音声通話の双方で確認し、いずれも陸上の通常の基地局と遜色ないレベルだったという。初の外洋での実験だったが、海が凪いでいたため、当初予定していた船のスタビライザーは使わずに実験が行われたという。