5月15日、16日の2日間、東京都千代田区の東京国際フォーラムにて「富士通フォーラム2014 東京」が開催された。
「Human Centric Innovation」というテーマが掲げられた今年の富士通フォーラムは、例年よりも、ユーザー向けソリューションの紹介に力を入れたイベントとなった。
展示会場では、サーバ/ストレージからスマートデバイス、タッチセンサー、さらにはそれらを制御するソフトウェアまで、幅広いICTを提供する総合ベンダーならではの強みを活かした近未来のソリューションを多数紹介。操業を停止した半導体工場のクリーンルームで生産されている水耕栽培レタスが配布されたほか、表示中の画像/動画の触感を伝えるスマートデバイスが展示されるなど、来場者を楽しませる仕組みが随所に散りばめられたイベントとなった。
本稿では、その展示ブースの模様と、富士通の最新の取り組みが紹介された基調講演の概要を簡単にレポートしよう。
製造、小売、農業、医療……、業界を変える近未来ソリューションの数々
富士通フォーラム2014 東京は、富士通 代表取締役社長の山本正已氏による基調講演『ビジネス革新と豊かな社会の実現に向けた挑戦』によって幕を明けた。
山本氏はまず、富士通の技術がフォーミュラカーの性能改善に活用されていることを説明。一部チームのシミュレーションにおいて、富士通が開発を手がけるスーパーコンピュータ「京」が使われており、大きな実績を残していることを明かした。
また、プロ棋士と戦ったコンピュータ将棋に富士通のサーバが使われていることや、公共施設でよく耳にする「携帯電話の電源をお切りください」というアナウンスの語調を変え、電源切断率の向上につながる緊迫感をはらんだ音声を開発していることなども紹介。身近な話題で聴衆の関心を引き付けた。
山本氏はその後、業種別に同社の技術が活用された最新事例や今後の技術を続けて披露した。
製造業においては、3Dプリンタの活用で試作品の制作コストが大幅に低減されている例や、量産ラインの設計に3Dシミュレータが使われ設計内容を高度に可視化している例、さらにはAR(拡張現実)の技術を使って、建築物の完成像や建築途中の様子をバーチャルに体験できるようにした例などを説明した。
小売業においては、ショールーミング(店舗で商品を確かめてネットで購入する行動)対策として、体験を重視したオムニチャネルのマーケティングにより、退店後も顧客を捉まえ空き時間に商品を吟味してもらう環境を作ることを紹介した。
さらに農業においては、これまで勘と経験に頼ってきた栽培技術を各種センサーを使って近代化し、競争力強化を実現していることを説明。この取り組みは、福島の半導体工場を転用して操業している植物工場にて自ら実践していることを明かし、同工場で栽培された"富士通製レタス"を頬張るパフォーマンスも披露した。
その他、医療分野において、スーパーコンピュータによる創薬シミュレーションが研究/開発の大幅な短縮につながっていることや、クラウドを活用した遠隔医療や在宅医療も実践されていること、社会インフラの面では、スーパーコンピュータ京を使って、津波シミュレーションを行い、災害に強い町づくりを進めていることなどが説明された。
こうした例をいくつも挙げた山本氏は「ビジネスにおいて今、パラダイムシフトが起きている。業界の構造、競争の源泉、消費者の求めるものすべてが大きく変わり始めている」と現状を分析。そのうえで、「こうした状況にいち早く対応できれば、大きなアドバンテージになる。もはや、"既存のものを守る"というのは厳しい選択肢。攻撃は最大の防御と言うが、ビジネスにも当てはまる」と続け、経営者に対して意識改革を促した。
「人、モノ、金」から「人、情報、インフラ」へ
こうした事例紹介を受けて登壇した、富士通 執行役員常務 松本端午氏は、同社の戦略についてもう一歩踏み込んだかたちで解説した。
松本氏は冒頭、2020年には500億個のデバイスがネットワークにつながるという調査結果を挙げた後、そうした世界を「ハイパーコネクテッドワールド」と表現。そのうえで、そうした変革を前にした現在を、「新たな産業革命の時を迎えている」と評した。
松本氏によると、情報の溢れる時代にあって、より重要な役割を果たすことになるのが「人」だという。松本氏は、「ネットワークに流れる大量の情報も1人1人を軸に意味付けすると違う価値が見えてくる」とコメント。「これまでのICTは、生産性の向上、コスト削減が主な用途だったが、今後のICTは、創造性や自律性による人へのエンパワーメントが重要になる」との見方を示した。
また、ビジネスにおいては、「以前は"人、モノ、金"が重視されてきたが、今後は"人、情報、インフラ"が大切になる」と説明する。さらに「情報の動きが1つの企業や業界に閉じていては価値が少ない。企業や業界を超えたバリューチェーンを作る必要がある。情報を媒介とした大きなエコシステムを作らなければならない」と、今後のイノベーションに向けた条件を挙げた。
以上を踏まえたうえで、松本氏は総合ICTベンダーとしての富士通の優位性を強調。全業種に対する知見を持つうえ、グローバル展開も含めてさまざまな事象にワンストップで対応できることなどを挙げ、「Shaping Tomorrow With You」というブランドプロミスのとおり、企業の未来を一緒に形成できる数少ないベンダーであることに改めて触れ、講演を締めくくった。