コンパクトカメラに関しては、高級コンパクト機や高倍率機の需要が年々高まっており、2014年第1四半期でも、新製品の「PowerShot G1 X MarkII」などの「PowerShot G/S」シリーズや「PowerShot SX」シリーズの販売数量が多く、中でも高級コンパクト市場では「断トツのシェア」(カメラ商品企画本部 カメラ商品企画第二部部長・岩田裕二氏)となっている。「スマートフォンでは撮れない、もっといい写真を撮りたい」というユーザーのニーズで購入者が増えているそうだ。

「コンパクトカメラの市場は今年から来年の動向で今後の方向性が見えてくる」と語る岩田氏

1.5型CMOSを搭載する高級コンパクト機「PowerShot G1 X MarkII」

カメラ市場は反転へ向かうのか?

キヤノンは、低調なカメラ市場において、幅広いラインナップとキャンペーンなどの施策でシェアを拡大した。とはいえ、消費増税による駆け込み需要の影響があったことは否めない。

レンズ交換式カメラの購入には、レンズを含めると10万円程度の費用がかかるわけで、春や秋の行楽シーズンなどに向けて購入を検討していた人が、消費増税を前に駆け込みで購入した場合も多いだろう。実際、4月以降に需要減退の兆候は出てきているが、「ある程度予想した範囲内」という。

コンパクトカメラも同様の傾向だが、レンズ交換式に比べれば低価格のため、レンズ交換式ほどの影響はないと見ている。それでも、落ち込みは出ているようだ。

ただでさえカメラの需要が落ち込んでおり、駆け込み需要の反動で売上が減少している中、これを盛り返すことはできるのか。

中村氏は、カメラの景気の底は今年の後半とみている。2013年は駆け込み需要に向けた仕入れが先行し、秋ごろから出荷台数が急増したため、「前年比で考えるとマイナスになる可能性はある。しかし、先行仕入を除いた実質的な出荷台数は増加するのではないか」と見ており、回復の端緒になると予測している。

一方、コンパクトカメラに関しては、事情が異なる面がある。それは当然、スマートフォンの影響で、「コンパクトカメラ需要が減少した大きな理由はスマートフォン」と岩田氏は説明する。それに加えて岩田氏は「カメラの進化で停滞感があった」と指摘。このため、買い替えサイクルが伸び、新製品の出荷が減少するという状況にあった、という。

スマートフォンの登場によるコンパクトカメラへの影響は、おそらく海外の方が大きい。もともと日本では、スマートフォン以前から携帯カメラで撮影する文化も根付いており、使い分けがされてきた。日本では、スマートフォン内蔵カメラの高性能化、高画質化で、「スマートフォンで十分」と感じる人たちが増加し、買い換えをしなくなったことが影響した。特に、低価格モデルでは女性比率が若干減少しているそうだ。

2013年秋冬からのゴールドラッシュキャンペーンでは、「プレミアム」で高級コンパクトを、「スプリング」では高倍率ズーム機を対象にして、スマートフォンとの差別化を図った。また、買い替えのきっかけとしてもっとも大きな要因は、今は「ズーム」にあるという。3倍程度のズーム倍率のカメラを持っていたユーザーが、20倍、30倍といった高倍率ズームへの買い替えを行っているという。業界でも、「高倍率ズーム機」は特に好調に推移している。

もっといい写真を撮りたいというニーズが顕在化

購買層の変化もある。高級コンパクトや一眼レフで年齢層の高い男性が多かったが、30代男性など、「いいものを買う」という層が増えている。ミラーレスカメラやエントリークラスの一眼レフでの女性比率が高い。

こうした層は、「スマートフォンで写真に目覚めて、もっといい写真を撮りたい」(中村氏)という需要が顕著に現れている、という。こうした点から中村氏は、「スマートフォンはコンパクトカメラには影響が大きいが、レンズ交換式にはある意味追い風になっている部分がある」と指摘する。

写真を撮影し、見せ合い、SNSでシェアするというように、撮影に親しむ人が増えたことで、専用機であるカメラに対する需要も高まっているというわけだ。そうした意味で、スマートフォンでは撮影できない高倍率や高画質を求める傾向が強くなり、レンズ交換式や高倍率ズーム機、高級コンパクトが求められるようになっているという。こうした傾向は女性に強く、結婚・出産などライフステージが変わった場合に写真にはまる人も多いそうだ。

薄型コンパクトながら30倍ズームが可能な「PowerShot SX700 HS」

国内の場合、退職したシニア層の増加でミドルクラス以上のレンズ交換式市場が好調なのも特徴だ。フルサイズのようなハイエンドクラスにいくほど年齢層が上がり、「ほとんどが男性」というような特徴的な購買層となる。コンパクトでも、高級コンパクトをサブ機に使うシニア層や、「重いカメラを持ち歩くのがおっくうになったが、いい写真は撮りたい」というシニア層も増えている。ちなみに、高級コンパクトの「PowerShot G1 X」シリーズをサブ機として使うユーザーは全体の3~4割のようだ。

社会の高齢化に伴う市場動向の変化もあるが、ミラーレスの登場でいわゆる「カメラ女子」と呼ばれる、女性のカメラユーザーが着実に増加した。加えて、デジタル一眼レフも伸びているため、比較的好調ではある。

とはいえ、特にコンパクトカメラは急速に縮小し、市場全体としても減少傾向にある。減少はどこまでいくのか。岩田氏は、コンパクトカメラの市場はスマートフォンの影響を受け、まだ縮小する可能性はあるが、今年から来年の動向で今後の方向性が見えてくると推測する。

コンパクト市場の落ち込みで、各社とも高倍率ズーム機、高級コンパクト機に注力しているが、キヤノンはスタンダードで低価格のモデルから高級コンパクトまで、幅広いラインナップをそろえている。規模は縮小しているが撤退せず、新製品を投入している。

コンパクトカメラの平均単価が17,000円前後といわれるなか、「PowerShot SX700 HS」のように、35,000円前後(2014年4月上旬時点)のカメラがよく売れており、高倍率ズーム機の需要は旺盛だ。「IXY」シリーズから高倍率ズーム機に買い替える人も多い。やはり「スマートフォンでは撮影できない」シーンを撮影できるカメラの人気が高く、スマートフォンがカメラの売り上げに貢献した形と言える。

カメラ業界は、リーマン・ショックで大きな落ち込みを経験し、そこから持ち直してきたが、再びスマートフォンによって下落傾向となっている。しかし、逆にスマートフォンで撮影する機会が増えて、そこからカメラへとステップアップするユーザーが、一定数は着実にいるため、今後再び反転に転じるとキヤノンは見ている。

スマートフォン側は、レンズやセンサーサイズの制限という意味では一定以上の画質や機能は期待できないが、コンピューティングを活用してピント位置を後から自由に変えられたり、撮影機能を工夫したり、「新たなカメラの使い方」を提案している。

カメラ業界としても、新たなカメラの使い方、機能など、これまでとは異なるアプローチが必要となってくるのは間違いないだろう。