デジタルカメラ市場が不調と言われている。カメラ映像機器工業会(CIPA)の集計では、2013年の出荷台数は全世界で約6,284万台となり、前年比36%減。金額ベースでも約1兆1,689億円で同20.4%減と、確かに減少を続けている。
特に減少しているのがコンパクトデジタルカメラだ。台数ベースでは41.4%減、金額ベースで31.4%減と、大きく減少している。そうした中、国内市場が盛り上がりをみせている。消費増税にともなう駆け込み需要と見られるが、「それだけではない」と語るのがキヤノンマーケティングジャパンだ。
スマートフォンによるカメラの需要減少と消費増税という両極端で揺れ動くデジカメ市場の動向について、キヤノンマーケティングジャパンに話を聞いた。
消費増税とキャンペーンでシェアを伸ばすキヤノン
キヤノンにとって2014年度第1四半期の1~3月が終わったところだが、調査会社のBCNによれば、台数ベースではデジカメ市場全体で前年同期比17%減と減少傾向は変わらない。特にコンパクトカメラが24%減となったが、ミラーレスを含むレンズ交換式カメラが12%増となり、減少幅を抑えた。これに対して、金額ベースではコンパクトカメラが6%減、レンズ交換式が25%増、全体では11%増となっている。
もともと、2014年第1四半期は業界として消費増税の駆け込み需要を想定していた。しかし、「2013年10月以降、(消費増税前の需要増をにらんだ)駆け込みの仕入れが多かった」と、キヤノンマーケティングジャパン カメラ商品企画第一部部長・中村真一氏は語る。このため、14年初頭分の売上を「先食いした形」(同)になり、予測よりも伸びていないという。実際にCIPAの統計では、2013年12月は前年比、前月比とも、国内向けの出荷台数・金額は伸びており、先んじた駆け込み需要があったことをうかがわせる。
こうした市場動向に比べて、キヤノンの第1四半期は順調だった。レンズ交換式カメラは、台数ベースで前年同期比26%増、金額ベースで同41%増となって業界全体を上回り、台数シェア、金額シェアともに上昇した。
コンパクトカメラは、台数ベースで同4%増ながら、金額ベースでは同25%増と伸ばしており、2013年同期の伸び率が11%減だったのに対して好調な結果だ。それに対して業界全体では、台数で同24%減、金額で同6%減となっており、前年比マイナスではある。ただ、下がり続けた平均価格が下げ止まり、上昇基調に転じているとのことで、この点は見逃せない。キヤノンも、より単価の高いハイエンドクラスのカメラが伸びたことで、金額ベースでは好結果となった。
デジタルカメラの商戦期は、もともと3~4月、9~10月、12月がピークの製品だ。デジタルカメラが伸びるに従って、12月の商戦期が拡大してきたが、フィルムカメラの頃からカメラの商戦期は春と秋。第1四半期は、ギリギリ3月が含まれるものの、四半期を通じてみればそれほど大きな商戦期ではなかった。それが、今年は駆け込み需要で、2013年第4四半期から2014年第1四半期にかけて、レンズ交換式が大きく伸びることとなった。
これに伴って、レンズの売上も伸びている。もともとレンズは、価格が一定を保つ傾向のある製品だ。消費増税前後で値下がりすることがないため、増税前に購入する商品として意味がある。カメラが伸びたこともあり、レンズの売上はカメラよりもさらに上の伸び率になった模様だ。
駆け込み需要に合わせたキャンペーンが需要を取り込んだ
キヤノンは、駆け込み需要を見越して2つのキャンペーンを実施していた。2014年1月まで実施した「ゴールドラッシュ[プレミアム]キャンペーン」では、ミドルクラス以上のデジタル一眼レフとプレミアム(高級)コンパクトカメラを中心にキャッシュバックするもので、続いて3月まで「ゴールドラッシュ[スプリング]キャンペーン」を実施。こちらはエントリーモデルのデジタル一眼レフ、高倍率ズームのコンパクトカメラを中心にキャッシュバックを行うというもの。
駆け込み需要にあわせたこの2つのキャンペーンにより、キヤノンはうまく需要を取り込んでシェアも伸ばした。駆け込み需要は4月が近づくにつれ高まり、「4月直前の数週間は売り場が非常ににぎわった」(中村氏)という。
しかし中村氏は、キヤノンが伸びた理由はこのキャンペーンだけではない、という。「ここ数年、いわゆるステップアップユーザーが顕在化してきており、"ちょっと良い(カメラを)買いたい"というムーブメントになっていた」という消費者動向を背景に、キヤノンがエントリーからプロ機まで幅広くラインナップし、交換レンズも豊富にそろえていることから、消費者が購入を検討する場合に同社の製品が候補に挙がりやすかった。「潜在的にラインナップの強さが発揮できた」と中村氏はみている。
ある購入者調査によれば、エントリークラスの購入者は約8割が新規の購入者、残りは買い換え・買い増しだった。これがミドルクラス以上になると買い換え・買い増し層の割合が増加する。レンズ交換式カメラの所有者が増加するに従い、買い換え・買い増し層が増えているほか、例えば「EOS Kiss」シリーズを60代の人が購入するなど、購入者の裾野も拡大しているという。
単に購入者が増えているだけではない。ミドルクラス以上を対象にしたキャンペーンは1月13日に終了したが、その後もフルサイズの製品など、ミドルクラス以上のカメラが継続して売れていた。エントリークラスでも、低価格の「EOS Kiss X5」があるにも関わらず、最新で値段も高い「EOS Kiss X7/X7i」のシェアが上昇しているそうだ。
高額なミドルクラス以上が売れ続けたこと、「エントリーでは単価の高いEOS Kiss X7/X7iがきちんと立ち上がった」(中村氏)ことが、2014年第1四半期に金額ベースのシェアが上昇した要因だった。
また、「EOS 70D」のようなミドルクラスは、「ハイアマチュア向け」という印象があるが、購入者の4人に1人は「一眼レフカメラを初めて買った人」で、中には「コンパクトデジカメも使ったことがない」という購入者もいるそうだ。コンパクトカメラからのステップアップユーザーも増えているそうだ。
EOS 70Dはライブビュー時のAFが速く、このインパクトが大きいようだ。購入者アンケートからは、「ちょっといいカメラが欲しい」という購入者層の動向が見えてきているという。