――そのあたりで、最初に描いていた2ndアルバムの構想が変わってくるところはありましたか?
喜多村「私は、自分の中で正義を作りたいタイプなので、人に敷かれたレールに乗るよりは、自分で敷いたレールに乗って失敗するほうがいいんですよ(笑)。そういう意味では、最初から漠然としていながらも明確な意図が自分の中にあったし、それを叶えてくれるサウンドチームにも恵まれていたので、路線を変更するようなことはなかったですね。今回のサウンドチームは、1stアルバムに携わってくれた相変わらずのメンバーだったりもするのですが、私だけではなく、喜多村英梨の音を作る人たちみんなが、アルバムのタイトルじゃないですけど、喜多村英梨の音楽を"証明"したかったんです」
――喜多村英梨の音楽の"証明"とは?
喜多村「振り幅が広すぎてキャラソンみたいに感じられることなく、どの楽曲にも、喜多村のサウンドはこれだ! っていう表情が見せられるサウンドに仕上げていかなければならない。そういったひとつの筋のようなものを、みんながすごく意識してくれたので、デモの段階から、『あれ?』っていうものはなかったし、軽く打ち合わせをするだけで、期待通りのものが仕上がってきた。そういう意味では、すごく周りに恵まれていました。もちろん、微修正をしたり、ブラッシュアップをしたりする過程はありましたが、大きく崩れるということはなかったです」
――ということは、制作自体はかなりスムーズだったわけですね
喜多村「内容よりも、どちらかというとスケジュールのほうが問題で(笑)。声優業と両立するために、制作スケジュールは予定していたものとは大きく変わってしまいました。ただ、音楽としての方向性や、自分がチャレンジしてみたいことは、サウンドチームが頑張ってしっかりと掬い上げてくれたので、失敗はしていないと思います」
――以前から喜多村さんは「和」のテイストが好きとおっしゃっていましたが、今回はジャケットをみても、かなり「和」を突き詰めた感じですね
喜多村「『和』なんですけど、どちらかというと"和洋折衷"なところもありますね。今回は、"メタル"というテーマで、自分の好きな世界観や荒ぶるサウンドを核にしつつ、その中に『和』をフィーチャーしてみた感じになっています。『和』だからといって、着物を着て演歌を歌っているという感じよりも、少しデザインチックに喜多村の好きな『洋』をうまくミックスすることで、何か新しいものが生み出せたらいいなって思っていた結果が、こんな感じになってしまいました(笑)」
――「和」だけにこだわったわけではない?
喜多村「リード曲や導入の部分で『和』を意識したのは確かですが、かといって全体をガチガチに『和』で固めるのではなく、あくまでも喜多村英梨の物語の続きを描きたかった。『和』だけにこだわるのではなく、バリエーションというかグラデーションのついた内容にすることで、楽曲だったり、声だったり、27歳になった喜多村英梨がこれまでに培ってきたものの成長過程のようなものを、"証明"できるチャンスをいただけたので、このアルバムで"証明"しますという……大事なことなので2回言いましたけど(笑)」
――そこに今回、"メタル"というキーワードを加えたのは?
喜多村「何より自分のすごく好きなジャンルということですね。一言で"メタル"と言っても、その中にはすごい分岐があって、デスメタルもあれば、メロディックでスピーディーなものもあるし、シンフォニックなものもある。非常にどっしりと構えつつも、いろいろな表情を見せられるジャンルなので、好きこそものの上手なれじゃないですけど、自分のものにしたいという目標もありましたし、そこで自分を打ち立てていきたいという思いもあります」
――"メタル"というジャンルはこのアルバムに限らず、今後もこだわっていくわけですか?
喜多村「声優としてだけでなく、アーティストとして活動している中で、周りを見てみると、みんな自分だけの音を持っているなって感じることが多かったんですよ。それは音や歌い方だけでなく、見せ方やビジュアル面も含めてなんですけど。そういうことを意識しながら改めて周りを眺めると、今の世代では、Vメタル的なところを、重たいものもキャッチーなものもあわせて、トータルでやっている方があまり自分の中では見受けられなかった。そこで、早い者勝ちではないですけど(笑)、そこが自分をしっかりと打ち立てられる隙間かなって。逆に誰かのものになるのなら、歯を食いしばってでも自分のものにしたい。そんな渾身の目標にもなっています」