「週刊文春デジタル」は週刊文春発売日である毎週木曜日の5:00に、本誌に掲載しているすべての特集記事をブロマガで配信する。特集記事とは、グラビアと連載記事以外の部分で、簡単にいえば電車の中吊りに出ている記事のことだ。連載記事の中でも、例外的に川上氏の「ジブリ見習い日記」だけはデジタル版でも配信する。
月額は864円で、毎週配信される最新号を含め、過去5冊までバックナンバーを購読することができる。新しい号が配信されれば、一番古い記事から読めなくなっていく仕様だ。もちろん、ePUB形式でダウンロードしておけばいつでも読むことができる。また、週刊文春では発売日前日の夜にスクープ速報として、スクープの予告記事を載せているが、それも「週刊文春デジタル」にて配信する。
今後は「まずは1万人の購読者を獲得する」ことを目標にし、ニコニコ生放送を使って「中吊りを配信する」などの試みにも挑戦していく予定だ。将来的にはニコニコユーザーからネタを募集したり、インタビューや会見映像を配信するなどの動画を活用した配信も視野に入れているという。とはいうものの、コンテンツをネット配信することで紙の売上に影響はないのか。西川氏は、「経験上、大きな影響はないと考えている」と述べる。
「3年前にデジタル化を始めたときは、紙の売上が激減するんじゃないかとか、いろいろな危惧があった。しかし、デジタル版の売上はうまくいっても紙の5%程度。そう考えるとそれほど大きな影響はない」
そもそも、niconicoユーザーと週刊文春とではメインとなるユーザーの年代が異なっていることもある。
「紙の週刊文春の読者は40代以上がメインの層。一方でniconicoさんは10代から20代の若い層が多い。彼らはこれまで存在しなかったニューカマーであり、新たな読者になる可能性がある」
単にデジタル化するのではなく、これまで存在しなかった層にリーチすることで、今までになかった化学反応を期待したい。ブロマガをプラットフォームに選んだのには、そういった思惑があった。
これまでにない試みだけに、将来性は未知数だ。「この試みがうまくいけば他の週刊誌ともやっていきたい」と語る川上氏だが、ネットではそもそも課金システムの成功事例自体が少ない。まずはこの「週刊文春デジタル」を成功させることで、今後につなげていく狙いだ。
ブロマガの属人性という不安要素もある。ブロマガの売れ筋を見ると、購読者数の1位はニコニコ動画の人気ユーザーである「M.S.S.Planet」。そして、堀江貴文氏、Gackt、岡田斗司夫氏と続く。彼らの購読者はいわば"ファン"であり、その意味でブロマガは属人性が強いプラットフォームといえる。その中で週刊文春というブランドがどこまで購読者を増やせるのか。
「まさにそこに挑戦したかった。属人性のない週刊文春というブランドがどう受け入れられるのか、やってみないとわからない。非常に興味深い」と西川氏は言う。
一方の川上氏は、ブロマガが属人的であることを認めつつも、「津田大介さんのブロマガなどは津田さん以外の人も書くなど雑誌化しており、今後はどこかでその部分が変わっていくのではないか。また、週刊文春という名前はネットの世界ではすでにキャラクター化しており、ある種の人格として認知される可能性がある」と今回の試みに期待を寄せた。
雑誌としてのモットーは「向かうところ敵ばかり」と「親しき仲にもスキャンダル」だという週刊文春。会見の最後に西川氏は「川上さんには、どうか我々がスキャンダルを書かなくてもいいように、身辺を清く正しくしてくださいねとお願いしている」と会場を笑わせていた。