面白かったのは、意味もなく田中の頭をなぐったり、「佐村河内を呼ぼうよ」と叫んだり、人のボケを横取りしたり、「このメンバーで仲良くできるわけねえ!」と毒づいていた太田に浜田が「なんやねん、さっきからお前は!」とブチキレたシーン。これは極めてリアルだったが、それでも太田はうれしそうだった。

その後、記念撮影とタモリの胴上げを行い一応の格好はついたが、そもそもこのメンバーが集まったら番組が成立するはずがない。そんな中、とんねるず、ウッチャンナンチャン、ナインティナインは、タモリへの敬意からか、発言を控えるなどバランスを取っていた。

とんねるずや爆笑問題が乱入したのは、石橋貴明の「今夜だけはノーサイドで、特別な笑いを作ろう」というタモリへの熱い気持ちがあったからではないか。地位もお金もある彼らが、不仲や過去のいさかいなどをいったん忘れて…それはこの日集まったタレントたちの総意なのかもしれない。

息子・中居から父・タモリへ

大物芸人たちが荒らしまくった空気を一変させたのがSMAP。感謝の気持ちを込め、タモリをぐるっと囲んで、『ありがとう』を熱唱した。その間タモリは直立不動で動かない。しかしアップで映し出されたその顔は、「少しでも動くと涙がこぼれてしまう」と言っているようにも見えた。歌が終わるとタモリは頭を下げつつ、「これで私もSMAPの一員になれました」とボケた。大きな感動と小さな笑い。最終回にしてこのバランス感覚はさすがとしか言いようがない。

続いて現レギュラー1人1人から、タモリへのメッセージが語られていく。なかでも印象的だったのは、タモリを恩人と慕う中居の言葉だった。

「音楽や演技は終わりに向かって、それを糧にして進めるけど、バラエティは『終わらないことを目指して進む』『覚悟を持たなければいけない』ジャンルではないかと。僕は『いいとも!』がきっかけで『バラエティを中心にやらさせてもらおうかな』と思えた。バラエティはゴールがないのに終わらなければいけないので『こんなに残酷なことがあるのかな』と思います。残念ですね。こんなに残念なことはないと思います」

「タモさんは怒りもしないですし、ホメもしてくれない方でしたけど、ようやくここ3~4年前くらいからご飯を食べれるようになり、お酒を飲んだとき酔っぱらってたこともあって、僕のことを優しく抱きしめて頭をなでて、『中居、オレお前に感謝してるからな。本気で感謝してるからな』って言ってくれたのがすっごくうれしかったです」

「ジャニーズもバラエティ(タレント)の育て方とか知らない中、チャンスを与えてくれてありがとうございました。タモさんが出演20年の僕に『もう成人だから卒業していいんだよ』っておっしゃってくれているのだと感謝して、今後も胸を張って恥じないようにバラエティを頑張っていきたいと思います」と一言一言、噛みしめるように語った。

ちょうど親子くらい歳の離れた2人だが、タモリが中居を見る目はいつも優しく、中居は自分の言葉でタモリが笑ってくれると少年のように喜んでいた。数年前から一緒にお酒を飲めるようになったことと言い、実の親子に近いものがあるのかもしれない。

ラストメッセージは「濡れたしめじ」

そして残り時間6分、いよいよタモリのラストスピーチがはじまった。新旧レギュラーたちが一斉に立ち上がり、タモリに敬意を示す。

「すいません。お忙しい中、こんなに集まっていただいて本当にありがとうございます。出演者、スタッフのおかげで無事32年間やることができまして、まだ感慨というのがないんですよ。ちょっとホッとしただけで、来週の火曜日くらいから(感慨が)来るんじゃないかと思うんですけど。明日もアルタに来なければいけません。楽屋の整理がありますから。私物がいっぱい置いてありますんで」(客席に笑いが起きる)

「みなさんのおかげでここまでやってくることができました。まあ、考えてみれば、気持ちの悪い男でしてね、こういう番組で以前の私の姿を見るのが大嫌いで、何か気持ちが悪い、濡れたしめじみたいな…(客席大爆笑)。嫌~なヌメッとした感じで、いまだに自分の番組を見ません。性格がひねくれておりまして、不遜で生意気で世の中ナメくさっていました。そのクセ何もやったことがないんですけど、これがどうしたことか、初代の横澤プロデューサーから仰せつかりまして、『だいたい3カ月か半年くらいで終わるんじゃないか』と思ってたところが、32年になりまして」

「まあ、生意気にやってたんですけど、長い間に視聴者のみなさま方が、いろんな状況で見てきていただいたのがこっちに伝わってきて、私も変わりました。何となくタレントとして形をなしたということなんです。視聴者のみなさま方がたくさんの価値をつけていただき、また、みすぼらしい身にたくさんのキレイな衣装を着せていただきました。そして今日直接みなさま方にお礼を言う機会がありましたことを感謝したいと思います。32年間、本当にありがとうございました。お世話になりました」と話すと万雷の拍手が鳴りやまない。でも、全員の顔が「寂しい」という力のない笑顔だった。

テレビでは、特にバラエティではまず感じられない優しくも切ない空気。これこそ「32年間にわたるタモリの芸と優しさが生んだもの」なのかもしれない。

「終わらせた」フジテレビの責任は重い

空気を読んだ関根勤から「今、一番したいことは何ですか?」と聞かれたタモリは、「早く酒飲みたいな」と即答。ドッと沸いたところで草なぎ剛が「もう一度『ウキウキウォッチング』を歌いましょうよ」と提案して全員での合唱がはじまった。しかし胸いっぱいで涙をこらえるレギュラー陣は、ほとんど歌えない。

そして最後はやっぱり「それではまた明日も見てくれるかな?」で締めくくったタモリ。「いいとも!」の返事をもらうと、笑顔で深々とお辞儀して「ありがとうございました。感謝します!」と少しだけテンションを上げた。

過去のレギュラーとして出席していた渡辺正行やロンドンブーツ1号2号は、顔すらほとんど映らずに終了。それ以外も「『いいとも!』のレギュラーだった」イコール「その時代のトップランナーだった人たち」がほとんど映らず、ひと言も発することなく番組が終了。あらためて何とも贅沢な一夜となった。

この日の放送は、「楽しくなければテレビじゃない」時代のフジテレビそのもの。同時に「実力のある芸人たちにこうした力を発揮させられない」制作側の問題が浮き彫りになったとも言える。タモリの高齢や健康問題はさておき、「番組を誰かに引き継がずに、国民的番組を終わらせた」フジテレビの決断は重い。そして、毎日とは言わなくても「タモリのレギュラー番組をせめて1本は増やしてほしい」と思っている人は、タレント・一般人を問わず多いはずだ。

結局この日も涙の粒を見せなかったタモリは、やはり誰よりも超一流の芸人だった。

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。