15時過ぎ、開戦。後手有利の展開に
15時過ぎ、前図の局面で40分以上考えていた佐藤六段が△8六歩と突き捨てた。これは戦いの口火を切った手である。これを受けて控室のプロたちも一斉に検討を始める。
控室には現役を引退したベテラン棋士も多く、四間飛車側を持ってさまざまな手を指摘する。だが、その全てを現役の若手棋士たちが打ち破るという検討の図式が続いていた。その象徴的な局面が次の図である。
図4はやねうら王が桂を端に成り捨てたところ。単純に考えれば桂馬を取られてしまい駒損で不利である。だが数手進んだ図5を見ると、後手の穴熊に先手の端歩が迫ってプレッシャーをかけている。いますぐにはどうということはないが、将来戦いが激化して先手に持ち駒が入ると、1三の地点が後手の穴熊にとって大きなキズになるという高度な作戦だ。
将来を見据えた戦い方はプロ的で、こうした戦い方ができることはやねうら王の高い実力を示している。しかし、最新のプロ間の認識はその上をいっていた。
「穴熊の戦い方も進化しています。端のキズは、その後の戦い方を誤らなければそれほどの脅威にはならないことがわかってきました。この展開ははっきり穴熊が戦いやすい、というのが現在のプロの認識です」(遠山五段)
その後も検討は続いていたが、出される結論は穴熊有利というものばかり。本局のコンピュータ将棋の評価値は第4局に出場する「ツツカナ」が使われていたが、その評価に差が出るのも時間の問題と思われていた。
勝負どころで佐藤六段に痛恨の読み抜け
図が本局の勝敗を分けた局面だった。
余談だが、この▲6五歩を指したところで電王手くんにトラブルが発生している。着手を終えたあと、駒台の上で動きを止めてしまったのだ。1分ほど後にトラブルは解消したが、いま思えばこれが異変の予兆だったのかもしれない。
図の局面で、ニコニコ生放送解説の木村一基八段、そして控室の検討陣が推奨していたのは△4五歩である。その意味は、5一の角を活用する狙いだった。
少し専門的になるが△4五歩を無視して▲6四歩なら△4六歩▲同金△2四角が狙い筋。金取りの先手で角を絶好の位置に飛び出せる。そうなれば後手がはっきり有利である。従って△4五歩には▲同歩が予想されるが、△3三角とやはり好所に角を活用して後手が指しやすい展開だ。
△4五歩が発見されて、控室では「ここではっきり後手が優勢になる」そう予想されていたのだが……。
佐藤六段の指した手は△6五同歩だった。やねうら王は少考で▲6四歩と歩を垂らす。これでいっぺんに後手が忙しくなってしまった。
53手目の▲6五歩は、将棋用語で「継ぎ歩」と呼ばれる手筋で、基本的な技のひとつである。そして△6五同歩に▲6四歩も「垂らしの歩」と呼ばれる基本技術のひとつだ。佐藤六段は局後の会見で「この基本的な筋を見落としてしまった」と語っている。
まさに、好事魔多し。通常なら絶対にありえない見落としである。
△4五歩の一手を逃がしたことで形勢は一転。後手がピンチに陥ってしまう。
両国駅のガード下にはちゃんこ鍋やあちこちにあった |
両国駅前の様子 |
第2回電王戦で涙の死闘を演じた塚田泰明九段 |