――桐谷さん自身、芝居や作品への取組み方についてこの10年で変化はありましたか?

昔は脚本をじっくり読んで、このシーンはこうしようとか、(相手が)こう来たらこうしようとか考えてましたね。でも、今は人生と一緒で、その瞬間何が起こるか分からない感覚でやった方が、あとあと完成した作品を見た時に満足度が違うというか。クセや体の動きといった、その役の"軸"さえ自分の中にしっかり持っていれば、まったく違う感覚でお芝居が出来るんですよ。

――それはたとえば具体的にどんな感じなのですか。

何か相手にバッと言われた時、すぐにセリフが出ず、とっさに出ることがあるんですが、覚えた通りにやっていると会話のテンポも普通の状態になってしまうんです。予想出来るリズムが崩れた時、嬉しいというか、めっちゃ生々しいなって思うんです。ある意味ライブじゃないけど、その世界に飛び込んだ自分を撮ってもらう、その感覚の方が今は楽しいですね。今までは自分が思い描いていた"画"に自分を合わせていく感じだったんですけど、ここに来てやっと芝居が面白くなってきました。

――流れに身を任せることでより良いものが生まれる、ということですか。

昔はトークショーでも、事前にいただいた質問を見てもうたりしてたんですよ。「じゃあ、こういうふうに答えたらかっこええかな」みたいな感じで。でも、それを実際にやると、もう一人の自分が「いやおまえ…今、答えてる感じやけどさっき考えたやん」ってツッコむんですよね(笑)。でも、答を用意しないことで、そこにウソもなければ、自分でも驚くようなええ答が出ることもあるんですよ。そこからまた相手とのやりとりが広がったりもするし。そう考えると芝居でも何でも全部一緒やなって思うんですよ。軸さえ持っていればフリースタイルでやった方が間違えないというか。

――その話の流れで最後にどんな「質問」をすればいいのか、ものすごいプレッシャーなんですが(笑)、桐谷さんが一人の人間として、毎日の中に"埋もれない"ように心がけていること、忘れたくないことはなんでしょうか。

女のコが好き、というのは男として忘れたくないことですけど(笑)、なんやろう…「変わっていくことをビビらない」というか「両方持つ大事さ」というか。何も考えない柔らかさで現場に臨みつつ、かけ出しの頃に持っていた「やるぞ!」という強い思いも忘れたくない。東京に出てきてもう16年くらい経つんですけど、いろいろなものがどんどん変わっていく中で「平坦になってしまっているな」って思う瞬間ってやっぱりあると思うんですよ。同じメシ屋に行って、同じように寝て、気持ちがすごく平坦になってるなって。でも、気持ちや行動なんて毎日違っていいはずだから、それをいかに自分で"振って"いくか、ですよね。まさに"埋もれ"ないように。

――自分自身で揺さぶり続けることが大事である、と。

安心出来る場所、落ち着く場所も必要ですけど、ずっとそこにおったら肩こるし(笑)、滞っていくじゃないですか。雲とかの自然もそうですけど、常に流れていく感じなくらい、固執せんでもええかなという気持ちと、その一方で、子どもの頃に思った「絶対ビッグになってやる」という気持ち。この二つの"力"があれば、すごく面白い方向に進んでいくと思うんですよね。新しいことやり続ければいいし、変わることも恐れなくていいし、どんどんやっていきたいです。選択肢が二つあると、どちらかを選んだらもう片方は選べない、戻れない感覚ってあるじゃないですか。でも俺、死ぬまで全部とってったろって思うんですよ(笑)。

出演はほかに国仲涼子、水橋研二、落合モトキ、伊藤歩、大友康平、斉木しげる、緑魔子ほか。第6回WOWOWシナリオ大賞受賞作・ドラマW『埋もれる』は3月16日(日)22:00からWOWOWプライムにて放送。