――レースのシーンについて、どのように撮影したのか教えて下さい。
『ビューティフル・マインド』(2001年)の撮影時、作品を作り上げるために数式を用いて理論的な数学者たちと話をしたことで、彼らには奥深い感性があることが分かった。さらに『シンデレラマン』(2005年)の撮影時、シュガー・レイ・レナードといったボクサーたちと話をした際に、反射神経が求められるスポーツはどれも、大抵の人がその価値を理解できないような対象物に対し、彼らの体や心は適応できており、非常に高い関係性を築けていることに気づいた。職業によって特徴の違いが見られたけどね。ラウダと話をした時に、彼は「マシンに乗った時の自身との一体感」を語っていた。私は「ちょっと待てよ。これは他にも何かあるな」と思ったんだ。そして私は他のドライバーたちに運転中に何が見えていたのか?何を感じていたのか?を聞き始めた。そしてマシンやコースに対するドライバーの感覚でしか分からない"いい日"と"悪い日"があるということに気づき始めた。意識が"ゾーン"に入っている時とそうでない時、私はその日のドライバーの状態という観点からレースを考えてみようと思い始めたんだ。レース中のドライバーの精神状態は? ピーター・モーガンが書いたドラマチックなシーンをつなげる面白い方法だと思ったし、レースのことをより深く描けると思ったよ。そのアイデアを実現させるために、自分の頭の中で考えていることを撮影監督であるアンソニー・ドッド・マントルと編集のダニエル・P・ヘンリーとマイク・ヒルに伝え、彼らのアイデアと合わせて少し変わった方法でレースのシーンを撮ることになった。最初から予定していたものではなく、副産物的な要因で付け加えられたものだったんだよ。
――サーキット上では具体的にどのようにして撮影を行ないましたか?
撮り始めた時はもっとたくさんCGを使おうと思っていたんだ。マシンは普通に撮影し、マシン同士が接近するシーンはCGにしようと考えていた。本物のマシンで映像を作り、相手を追い抜いたりする危険な場面はCGといった感じでね。だが最初のテスト撮影でニュルブルクリンクに行った時、歴史に名を残す名ドライバーたちが数百万ドルの価値があるマシンをスピンしながら本気で操っているのを目にした。そして彼らと話をし、追い抜きのシーンを撮らせてもらったんだ。彼らはスタントドライバーではないので、無茶なお願いはしなかったが、マシンの加速やパワーを目の前で見て、即座に彼らなら何でもできると思ったよ。それほど卓越した運転技術を持っていたからね。そして次に我々のレプリカの車-レースカーほど高価ではないがクラッシュさせるには高すぎる-を運転していたドライバーたちのテクニックを見せてもらった。彼らは接触させることも、スピンさせることも、追い抜くこともできる。その時に実際にカメラで撮ろうと思ったんだ。ここに来る前の"危ないことはせずに安全に撮ろう"というリラックスした気持ちから、"これならすごい映像が撮れる、気を抜かずにやろう"という気持ちになった。大きなトラブルはなかったが、それでも不慮の事態は起こる。ドライバーの技術の問題ではなく、メカニックが必要となるトラブルが起こるかもしれない。雨の日の撮影時に予定にないスピンをしてしまったが、そういったシーンの1つが映画の中で使われている。何事もなく撮影が終わってよかったよ。
――当時のレース映像も織り交ぜながら制作されていますよね。
我々は何でもやるんだ。記録映像、CG、実写、本物のマシン、レプリカのマシン。『フォレスト・ガンプ』(1994年)と同じ手法を使っているところもあるよ。グリーンスクリーンの前に置いたマシンを撮影し、それを過去のレース映像に混ぜ込む。背景はそのまま使い、細かい部分に修正を加えるんだ。これは映画製作の最新技術で、観客に今見ている映像は1976年のものだと思い込ませるためだよ。
――同作は、『アポロ13』と同じように専門的な分野の話に焦点を当て、専門的な分野を色鮮やかに描き出し、見る者を夢中にさせる作品に仕上がっているように感じました。
そう思うよ。だが『バックドラフト』(1991年)のような"危険"も含まれている。『アポロ13』と『バックドラフト』を合わせた感じだ。『バックドラフト』の物語はフィクションだがリアリティを追求した。私はとにかくリアルな世界を描こうとしていたんだ。この2作品はよく似ていて、炎の中に飛び込むこと、月に行くこと、さらにF1マシンを運転するといった非日常的なことを身近にし、人々を楽しませ夢中にさせる何かがある。私が映画に夢中になる時は、それを楽しんでいる時だ。似たような理由で空想の物語も好きだが、ドラマで夢中になると、そこで起きていることがまるで自分に起きたように感じ驚いてしまう。私はその感覚を観客に与えることを望んでいたんだよ。
1976年、F1黄金時代。世界を熱狂させたのは、情熱型のジェームス・ハントと頭脳派のニキ・ラウダの熾烈なライバル対決だった。ラウダのチャンピオンが確実視されたその時、ラウダは壮絶なクラッシュにより、瀕死の重傷を負う。再起は絶望的ともいわれたが、ラウダは再びサーキットに戻ってきた。ハントとラウダのポイント差は僅か。最終決戦の地は富士スピードウェイ。二人の勝負の行方は…… |
映画『ラッシュ/プライドと友情』は、現在公開中。
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インタビュー撮影:荒金大介(Sketch)