『アポロ13』(1995年)、『ビューティフル・マインド』(2001年)、『ダ・ヴィンチ・コード』(2006年)など、これまでに様々な大ヒット作を手がけてきたロン・ハワード監督の最新作『ラッシュ/プライドと友情』が公開された。同作は1976年のF1グランプリを舞台に、天才ドライバーのジェームス・ハントとニキ・ラウダのライバル対決を描いた作品だ。F1を観戦したこともほぼなかったロン・ハワード監督は、なぜこの作品に興味を抱き、撮ろうと思ったのか。話を聞いた。

ロン・ハワード
1954年、アメリカ生まれ。子役として芸能活動をスタートし、1976年にコメディ『バニシングIN TURBO』で監督デビュー。『ビューティフル・マインド』(2001年)でアカデミー監督賞を獲得。これまで『バックドラフト』(1991年)、『アポロ13』(1995年)、『ダ・ヴィンチ・コード』(2006年)、『フロスト×ニクソン』(2008年)などを手掛けている

――この作品の脚本は監督が『フロスト×ニクソン』で初めて一緒に仕事をしたピーター・モーガンが手掛けています。監督はいつこの企画について知ったのですか?

脚本作りの早い段階で聞いて、私はすぐに興味を持ったんだ。ロサンゼルスで朝食をとりながら、互いに近況報告をしていた時に、この作品に取り組んでいることを彼が話してくれてね。私は「とても面白そうな物語だ。F1のファンではないし特に詳しいわけでもないが、その世界に興味があるし、今までにこういった映画を作った人はいない」と言った。描かれている人物たちも素晴らしい。2人の魅力溢れる人物、観客の心を揺さぶる映画としての可能性と味わったことのないリアルな感覚-F1マシンの運転席に座り、ドライバーの気持ちになる-私は絶対に素晴らしい映画になると感じたんだ。当時は他の監督がこの映画についてピーターと話をしていた。だが、その監督は他の作品を監督することになり、この作品は宙に浮いた状態となっていた。ピーターは私がこの物語に興味があることを知っていたから、内容を見せてくれた。彼はこの作品の脚本をノーギャラで書いていたんだよ。

――監督はF1にあまり興味がなかったんですよね。F1のことについてはどの程度知識があったのでしょうか。

ジョージ・ルーカスが大ファンで、F1のことはよく彼から聞いていたよ。それで7年か8年前、私がフランスにいた時にジョージに招待されてモナコGPを見に行った。生で見るのはその時が初めてだったが最高だったね。でも本格的にのめり込んでいったのは、2年前のシルバーストーンでニキ・ラウダと一緒にテレビで観戦した時からだ。彼は内容を解説する仕事のためにレースを見ていた。その時に彼が、各ドライバーが次にどんな行動をして、マシンがどんな状態なのかということを解説してくれたんだけど、彼はテレビの解説よりも先にすべてを言い当てていた。本当にすごかったよ。立ち上がってトイレに行くこともできなかったくらいね。そしてレースも白熱した面白い展開だった。最先端のテクノロジーとスポーツの精神とすごいスピードを競い合う勇気が混ざり合うと、面白いドラマが生まれるということが分かってきたんだ。

――この作品を制作するにあたり、G・ルーカス監督と何か話をしましたか?

実はこの作品の脚本を読んでもらったんだ。そうしたら「これは事実に基いている。本物だ!」っていうお墨付きをもらったんだけど、それと同時にやめろって言われたんだ。なんでそんなにお前は働きたいんだってね。なんでこんな苦労することが目に見えている作品を作るんだって。その忠告を聞かずに、僕はこの作品を撮ったんだけど、ルーカスの言うとおりだったよ。とっても大変だった。だけど、その努力は報われたと思う。

――あまりF1に興味がなかった監督だからこそ、描くことができたシーンなどもありましたか?

僕のF1の知識のなさが、かえってこの映画のためになったと思っているよ。それは、僕自身がF1をリサーチしていくことで様々なことが分かっていき、それが僕にとってはとても新鮮で、とてつもなく面白いことだったんだ。だから、この感情を観客とシェアしたいという強い想いにかられた。「これは凄いことなんだ!」ということを素直に描けたと考えているよ。

――天才レーサーのジェームス・ハント役とニキ・ラウダ役に、クリス・ヘムズワースとダニエル・ブリュールを抜擢した理由を教えて下さい。

ダニエルはピーターの推薦だった。私も彼の演技は他の作品で見たことがあったし、気に入っていた。実際にダニエルと会い、ラウダとダニエルの写真を確認してニキの出っ歯と体型の問題をどうするか話し合った時に、彼はそういった部分も含めて役作りすることを望んでいたし、ピッタリだと思った。それはアレクサンドラ(ニキ・ラウダの妻マルレーヌ役)も同じだよ。ピーターが推薦した役者たちだ。彼はこの映画の製作も務めているし、素晴らしいキャスティングだったと思っているよ。

――C・ヘムズワースについては?

クリスは自分で役を勝ち取った。我々が候補者を考えていた時に、彼は『アベンジャーズ』の現場で作ったオーディション用の映像を送ってきたんだ。クリスはサーファーだが、ジェームスはそうではなかった。だがジェームスにはカリフォルニア特有のカッコよさが漂っていたんだ。クリス自身が持つ雰囲気としぐさを持っていたし、ジェームスのインタビュー映像を見てオーディションのために役作りまでしていたことには本当に驚かされたよ。その他のキャストはすぐに決まった。オリヴィア・ワイルドは『カウボーイ&エイリアン』で一緒に仕事をした時とはまったく違う役だけど、彼女は昔、家族がイングランドに住んでいてイギリス英語に馴染みがあったからピッタリだと思った(スージー・ミラー役)。『カウボーイ&エイリアン』の編集用フィルムを見ていた時に、ある程度型が決められるあの作品でも彼女の演技には幅広さがあった。私は変幻自在の女優として素晴らしい素質を持っている彼女を尊敬しているんだ。

――クリスはスーパーヒーローの印象が強いですが、ジェームス・ハントを演じたヘムズワースは、ドラマが主体となったこの作品の主役としても活躍できるでしょうか?

我々にとっても彼はまだ新しい役者で、『マイティ・ソ-』のイメージしかない。J・J・エイブラムスが『スター・トレック』で彼を起用し、その当時は皆が「最初のシーンでカークの父親を演じていたのは誰だ?」と言っていた。彼のオーディション映像が気に入った私はケネス・ブラナーに電話をしたんだ。するとケネスは「彼は好青年で向上心があるし、仕事に対する意欲もある。すごく可能性のある役者だと思うよ」と言っていた。さらに『360<未>』(ピーター・モーガンが脚本)のアンソニー・ホプキンスにピーターが連絡をして聞くと、アンソニーは「私と一緒に撮影している時の彼は輝いていた。存在感のある役者だ」と言っていた。それらの評判と彼が作ったオーディション用の映像を見て彼に決めたんだ。私なりの確信があった。彼は「ジェームスになるために体を絞ります、見ててください」と言い、その通りに体を作った。難なくやり遂げたように見えるが、実際はジェームスになりきるために体重を13キロ~18キロも落としてきたんだよ。