氷のベッドにスノーバーまで
ノルウェー極北にあたる「キルケネス」では、その風土を生かした様々なアクティビティが楽しめる。例えば「スノーホテル」では、ハスキーサファリ(犬ぞり)やオーロラツアー、スノーモービルツアーのほか、雪で作ったホテル「スノーホテル」にも宿泊できる(1泊2食、サウナ、キルケネス市内からの送迎付きで、ひとり2,450ノルウェークローネ・約4万1,330円)。
雪で作ったホテルへの宿泊は、12月下旬から6月下旬の期間限定となっている。雷鳥やハスキーなど寒冷地帯の動物は、雪に潜って寒さをしのぐこともあるように、このホテルでは大きな風船で型をとり、雪を断熱材にして“建設”している。
中には、周辺の湖から切り出した15トンもの氷を用いて、ベッドやテーブル、装飾を作成。2013年度は「北極探検とおとぎ話」をテーマにして、デザインの異なる19の部屋が作られている。そしてこの部屋で、マイナス35度の環境でも耐えられる寝袋に包まれながら、またとない夜を過ごすことになる。
さらに、ホテル内にはスノーバーもある。ノルウェーではビタミン源として重宝されている「クロウベリー」のほか、ウォッカを用いたカクテルがあり、ここがロシアに接する地であることを実感した。ホテルは宿泊だけでなく、ドリンクもしくは食事付きのツアーもある(400ノルウェークローネ・約6,750円~)。
ロシアから極上カニが歩いてきた!
これらのアクティビティの中で、特に日本人に体験してもらいたいのが、スノーホテルが実施している「キングクラブサファリ」(1,600ノルウェークローネ・約2万6,990円)である。キングクラブはタラバガニのこと。なぜキルケネスでキングクラブが、それも大量に食べられるのか? その起源は1960年代の旧ソ連が抱えていた事情による。
旧ソ連では食糧難の解決策として、科学者の案で東沿岸のムルマンスクにキングクラブが放流された。天敵のいないキングクラブは瞬く間に増殖し、海を歩いてキルケネス側にも到着。その大きさは足を広げると1.8mで10kgにもなり、1kg=100ドルで取り引きされることもある。オールシーズン漁ができるようで、キルケネスの港には巨大なカニ籠が重ねられていた。
わんこ方式でカニが来る
「キングクラブサファリ」では、実際にカニ籠アクティビティを見学し、とれたばかりのキングクラブを茹(ゆ)でてもらい、満足いくまで食べられる。アクティビティの拠点は凍ったフィヨルド。夏は仕掛け場までボートで向かうが、フィヨルドが凍る冬はスノーモービルでびゅんっと行く。
この日、ひとつの籠にかかっていたキングクラブは7匹。そのキングクラブをスタッフが手際よくさばいていく。さばいたキングクラブは足だけ別にし、カニ味噌がびっしり詰まった甲羅は捨ててしまう。カニ味噌のおいしさを知っている日本人からすると、「捨てるくらいならちょうだい!」と思ってしまうが、カニ味噌は食用にすることを差し控えているという。
冷えた身体をホットココアで温めつつ、キングクラブが茹で上がるのを待つ。「そろそろだ!」とスタッフが教えてくれたので、鍋の前に行ってみることに。カメラレンズも曇ってしまいそうな真っ白な湯気の中には、カニ、カニ、カニ。盛りだくさんのカニである。このキングクラブをランチにするために待っていた筆者からすると、もうたまらない瞬間だ!
巨大なキングクラブはお皿を簡単に占有してしまうので、一皿に載せられる量には限界がある。しかし、慌てることはない。様子を見て、ちゃんとスタッフがおかわりを持ってきてくれる。キングクラブそのものにもしっかり味が付いているのだが、ここではレモンを搾るのみならず、マヨネーズをのせる食べ方もあるよう。マヨネーズはキングクラブとの相性もよく、味に変化が出るので更に食べられてしまう。加えて、ここにポン酢があれば……と思ってしまった。
今回、フランス人観光客の団体とご一緒させてもらったのだが、筆者が黙々と食べているそばで、早々に談笑を始めていた。見てみると、初めの1本でフィニッシュのよう。筆者は5本でおなかがパンパンになってしまったのだが、スタッフに今まで一番食べた人は何本だったか聞いたところ、その数は17本とのこと! ちなみにその記録を叩き出したのは日本人女性だったという。欧州の極地で“世界記録”を成し遂げた彼女に拍手を送りたい。
※取材協力:スカンジナビア政府観光局