――タキさんが生きた時代についてはどのような印象を?

やっぱり、ちょっと遠く感じます。映像などの情報で知っていることはありますが、実際に体感したことではないので、本当に知っているわけではありません。昭和という時代は戦争で苦しくて、生活もまともにできないようなイメージなのですが、今回の『小さいおうち』で戦争に追いやられる苦しさだけじゃない生活があるんだというのを、少しだけ体感できたような気がします。

――本作は、そういう時代背景の中での”許されない恋”が描かれています。時子さんのその恋を、率直にどう思われましたか?

時代背景もありますし、お見合いで結婚しているというのもありますし。でも、難しいですよね…。だからこそ、タキちゃんも悩んだんだと思います。奥さまの恋が大事なのか、世間からの冷たい視線から奥さまを守ってあげるのか。そういうことで、すごく悩んだんじゃないかなと思います。私自身は…どうでしょう。現代だと好きになってから結婚する方が多いと思いますので…うーん…分からないですね(笑)。周りにそんな人もいませんし…でも、止められないものは止められないのかなとも思います。すごく、難しいですよね。男性側だったら、おいおいってなりますね(笑)。

山田洋次監督をはじめ主要キャストが勢ぞろいした製作会見(前列左より、倍賞千恵子、山田洋次監督、松たか子、後列左より黒木華、妻夫木聡、片岡孝太郎、吉岡秀隆)

――山田監督からの「思っていることと行動が違うのが人間だから」という言葉が、演じる上でも支えになったそうですね。

長回しのシーンは決心だったり、決意の場面で、タキちゃんが唯一の秘密を抱えるシーンでもあったので、その言葉の意味が分かりました。口にする言葉も本心なんですが、心のどこかではその逆のことを考える。いつの時代でも、話しながら言葉を選別したり、これは言えないこととして言わなかったり。山田監督のその言葉は、特定のシーンで言われたことではなかったので、撮影全体をとおして「本心ではどう思っているんだろう」と考えながら演じるきっかけにもなりました。

――カメラ前に立った時、役柄になりきるタイプですか。

やっぱり、自分がどこかで見ています。自分本位ではいけないと思いますし、その役でいないといけないと思いますし。まだまだ勉強中の身ですし、経験も浅いので、映画を良くしていく上での必要な計算もまだできません。だからこそ、自分本位でいることではいけないと思っていて。我を忘れるくらいの時もあるかもしれませんが、割と冷静な自分を見ている方だと思います。よく憑依型とか言われる方がいらっしゃいますけど、羨ましかったりします。

――松さんの出演舞台『贋作 罪と罰』を高校生の時に見たことがきっかけで、松さんに憧れるようになったそうですね。

今から8年くらい前でしょうか。当時、演劇部に所属していたんですが、顧問の先生が部員を誘ってくださったんです。それもあって、観劇の機会が多くて、関西なのでキャラメルボックスとかよく見に行っていました。

――なぜ、演劇部に入ろうと?

小さい頃から、弟と一緒に両親に連れられて地元のお芝居とか参加したりしていて、その頃からお芝居は好きでした。やりたいことをやればいいという親で、近くの高校の演劇部が有名だったので、そこにいくことにしました。進学校だったので、残念ながら勉強しなければいけなかったんですが(笑)。

――女優になるという夢、覚悟はその頃に芽生えたのでしょうか。

いえ、ありませんでした。幼稚園の先生になろうと思っていて。お芝居を仕事にしたいと思うようになったのは、野田秀樹さんの舞台がきっかけなんですが、それまではなんとなくやりたい、続けたいと思うくらいで。こうして山田監督の作品に出るようになるとは思ってなかったです。両親が、「自分の人生だし、女の子なんだから結婚すればいいことなんだし」と言ってくれことがすごく大きくて、だからこそ今こうしていられるんだと思います。

――2013年は、たくさんの作品に出演して、多くの人が「黒木華」という存在を知った年だったと思います。ご両親は何かおっしゃっていますか。

作品は全部見てくれていますし、記事に載ったりしたのを見てくれています。私がそういうことをあまり伝えないので、自分で調べて見つけて「言わないんだもん」ってよく言われます(笑)。私は好きなことをやらせてもらっているだけなので、今の状態がどれだけすごいことか分かりませんけど、両親が喜んでくれるのが何よりもうれしいです。両親のこと好きですし、自分の好きなことをさせてくれて本当に感謝しています。

――2014年も楽しみですね。

変わらず、ボチボチ頑張りたいです(笑)。今年は朝ドラ『花子とアン』がはじまるので、まずはそれを頑張りたいです。その上で、たくさんのことをできる限りがんばりたい。舞台ももっとたくさん出たいですし、映画やドラマも。今年は去年以上にたくさんの人と出会える年になればいいなと思います。

(C)2014「小さいおうち」製作委員会