最後に、Appleがこうした決済システムにどの程度本気なのかについて触れてみたい。今回チャートに登場したNFCもSEも、どちらもAppleのハードには導入されていない。SIMベースでも内蔵型でもSE導入にはパートナーの存在が欠かせず、仮に導入するとしてもインフラ整備は大掛かりで時間のかかるものとなる。では、Appleも腰を据えてこれら技術の本格導入へと向かい始めたのか? それは少し希望的観測すぎるかもしれない。特許が申請された2012年9月はまだiPhone 5が発売されたばかりであり、トレンド的にもNFCが注目され始めていた時期だ。だが現在、NFCや従来の組み込み式SE以外での決済手段にも注目が集まるようになり、それがBeacon系のソリューションやクラウド決済として結実している。その意味で、当時とはまた違った考えをAppleは持っているかもしれない。
また経済的事情もある。現在、米国ではチップ方式のクレジットカード(EMV)導入に向けた取り組みが進んでおり、すでに大手リテーラーを中心にEMVならびにNFCによる非接触決済に対応したPOS端末の大量導入が進んでいる。もし新システムへの切り替えが必要な場合、さらなる追加投資や時間が必要となるわけで、導入を躊躇するには十分な理由だろう。これはBeaconなどBluetooth Low Energy (BLE)技術を使ったソリューションも同様で、「興味はあるものの追加投資は厳しい」という意見を頻繁に聞いている。仮に導入があるとしても、先端技術に興味がある中小商店か、あるいは新規/リニューアルオープンのモールなど、比較的限られた範囲となるだろう。