カシオのデジタルカメラ、EXILIMシリーズのフラッグシップモデル「EX-10」についてお話をうかがう、インタビュー企画の後編。今回は、カシオの目指す画質への哲学「好画質の追求」について、開発部の松永剛氏に聞いた。画質への考え方にとどまらず、カタログにも書かれていないEX-10の隠されたギミックが明らかになる!
高画質と好画質
「EX-10は、カメラの原点に立ち返った製品です。カメラの基本である光学的な足回りを充実させ、バックヤードでは先進のデジタル技術を駆使しつつ、ユーザーが直接感じることができる質感や手応え、満足感を大切にしています。それは『好画質』を追求していくという、カシオの画質に対する考え方にも共通しているといえるでしょうね」(カシオ計算機 QV事業部 開発日 商品企画室 萩原一晃氏。「カシオの最新デジタルカメラEXILIM「EX-10」について、ぶっちゃけ聞きたい!【前編】」より)
「高画質」という言葉は一般的だが、「好画質」とは? カシオ計算機 QV事業部 開発部 松永剛氏に語っていただいた。
―― まず、高画質について。何をもって高画質と呼ぶかは難しいところだと思うのですが。
松永氏「写真の画質を決定する大きな要素には、次の3つがあると私たちは考えています。最適な露出、ホワイトバランス、そしてダイナミックレンジ。
この3点は、サービスサイズ(編注:一般的にはL判サイズ)でプリントしたときや、写真をPCの画面にフィットして全体表示したときでも感じられる画質要素なんですね。だからとりわけ重要と考え、まずこの3点に対して技術を投入しています。
また、特に暗いシーンにおいては、撮影を失敗しないための技術も重要です。ストロボを使わない場合は、ハイスピード連写合成を使って手ブレと被写体ブレを同時に抑える。ストロボを使った場合でも、できるだけ外光、定常光を生かして発光を行うようにしています。
コンパクトデジタルカメラの場合、レンズとストロボの位置関係が近いこともあって、光が硬くなってしまう傾向がありますから。なるべく暗部だけを補正して、明るいところにはあまり光を足さないイメージですね。そうすることで、なるべく見たままに近い画質が得られるようにしています。
こういった高画質を支えるための基本技術が基盤にしっかりと存在していて、その仕上げ段階のフィニッシュワークで『好画質』に仕上げていきます。」
―― では、その好画質について教えてください。
松永氏「好画質を実現するための技術には、おもに次の2つがあります。1つは、残したい風景写真のための技術。そして、自分が写りたいと思ってもらえる人物写真の技術です。
風景に関しては、忠実な色再現性より、印象色を大切にしています。シーン解析技術を応用して、夕日の赤味をちょっとだけ強調したり、青空の濁りを抑えてより澄み渡った感じにしたり、というものです。
人物写真の技術としては、顔認識を利用した、顔の明るさを最優先する露出技術です。人物の顔以外、例えば服装や背景などに白飛び、黒つぶれが発生した場合は、これらを補正します。人物に関しても、忠実な再現より理想的な肌再現を採用しています。赤ちゃんや子供については、親の目線で自分の子がどう写ったら嬉しいかを調査しながら、調整しています」
―― このあたりは、まさに「プレミアムオート PRO」で実装されていた機能と思想ですよね。
松永氏「オート撮影に関しては、一貫した思想で開発を行っています。とはいえ、技術もどんどん進歩しますから、処理速度や精度も日々向上します。
これらにはトレンドがあると思っているので、時代の潮流に即したトレンドをアンケートや写真共有SNSなどで調査して、画像処理エンジンに反映させています。昨今でいえば、ポートレートでも淡く青が被ったクールな写真が好まれたりしていますよね」
―― 以前は、シーンが風景なら彩度のパラメーターを上げるなど、画一的な補正が一般的でしたが、今はそうではないんですね。
松永氏「方針として『木を見て森を見ず』にならないような画質設計を、常に心がけています。ツールによる数値評価も行っていますが、カシオはどちらかといえば、機械的な画像解析による数値より、実際のユーザーの声や感覚を優先したい。
少々極端にいえば、ダイナミックレンジを広げるとノイズが乗るとか、解像感が低下するリスクがある。でも、カシオは(どちらか1つを取るなら)最終的にダイナミックレンジを取ります、ということです。10年後、 20年後に見たときに、撮影時の感動が蘇るのは、そちらの『画』だと思うんですよ。
最先端技術も積極的に採用していきます。現在は未搭載ですが、被写体の人物を解析して、その人の年齢や性別などの複合条件ごとに最適な肌を再現する、といった技術も研究中です。今後も、新しい技術は積極的に採り入れていきたいですね」