―― 続いて外見についてですが、同価格帯の他社製品を見回すと、レトロスタイルというか、クラシカルな外見のカメラが多く目に入ります。そういったトレンドに乗っかっちゃえ的な(笑)、選択肢はなかったのですか?
萩原氏「最初の企画段階では、レトロ調のデザインで行くことも考えていたんです。各社さんの製品を含めて人気が高いものを見ると、レトロ調かつシンプル系のデザインが多いんですよ。
我々からは『なるべくシンプルでレトロチックな外観』と、デザイン部門にお願いしたんです。実際、EX-ZR1000のときにEXILIM 10周年記念モデルとして、ブラックとシルバーのクラシックカラーモデルを限定で発売したんですが、これも非常に好評でしたので。
ところが、デザイン部門が考えたデザインは、我々のリクエストとはまったく違いました。デザイナーがいうには、『カシオはこの価格帯では最後発。レトロデザインが流行っている中に同じような外見のカメラを投入しても埋もれてしまう』と。
EXILIMは機能面でも常に先進性を打ち出してきたし、そのイメージを最上位モデルにも入れていきたいとのことでした。そこで、やや未来的で、かといって突き抜けた未来感ではなく、スタイリッシュな先進性を感じさせるバランスがいいということで、このデザインを提案してくれました。最終的には私たちも納得して、多少の手直しをした上で現在の形になっています」
―― 本体がカラバリなしの一色展開というのも、カシオとしては珍しいですね。
田中氏「従来機より高価になることは分かっていましたし、製品のコアターゲットを30代~40代の男性と設定していたので、高級感のある色を考えました。離れてみると黒っぽく見えますが、近くで見たり光を当てたりすると、紺と分かる深みのある色です。デザイナーによると、ヨーロッパのテーラードスーツによく使われる色とのことです」
萩原氏「EX-10はセンサーやレンズだけでなく、『物作り』の面でも今まで以上に気合いを入れています。本体のフロントとリアパネルにマグネシウム合金を使用して剛性を高めていたり、天面パネルにアルマイト処理を施したり。モードダイヤルの操作性や、菱形のローレット加工(編注:すべり止め加工)なども、こだわった部分の1つですね」
―― 3.5型の液晶モニタはすごく大きくてキレイですよね。発色が良いので、撮っていて楽しい。それだけに、もしこれがタッチパネルだったらなぁ、とも思います。
萩原氏「タッチパネルを採用するかどうかは、正直かなり悩みました。コンパクトデジタルカメラ全体でも採用するモデルが増えていますし、EX-10は液晶サイズを大きくしたこともあって、なおさら悩んだ。エクシリムエンジンHS Ver.3のインタフェース(編注:画面のメニューなど)はタッチパネルを活用できそうなので、今でも非常に気になっています。ただ、タッチパネル液晶はコストの関係もあって、なかなか難しいところでもあるんですよ」
―― 確かに、ベストショットの画面やプレミアムブラケティングの一覧画面からは、触って選びたくなりますよ。
田中氏「タッチパネル付きのデジタルカメラが登場したのはずいぶん前ですが、当時は操作感がそれほどいいわけでもなく、やがて下火になってしまいました。再び注目されてきたのは、タッチレスポンスの向上と、スマートフォンの影響ですよね。スマートフォンやタブレットでスタンダードなUI(ユーザーインタフェース)になったので、みんなが使いやすいと感じている。十分検討するべき課題の1つだと思います」