モーター×5個分のスペースに、6個のモーターを入れるには?

―― 続いてモーターのお話をお聞かせください。そういえば、OCW-S3000とOCW-S3001は「6モータードライブ」が特長の1つでしたね。

小島氏「それは、新開発のモーターが大きく関係しています。このモジュールを見てください。OCW-S3000のモジュールに乗っているモーターの方がずっと小さいでしょう?

この小型化された優れたモーターがあってこそ、新しい表現やレイアウトの自由度が増し、ホームタイム、ワールドタイム、ストップウオッチの3モードを同時に表示する、6モータードライブが可能になったのです」

従来の5モーター(写真左)と、新型の6モーター(写真右)

細渕博幸氏

細渕氏「優れたモーターとは『少ないエネルギーでより多くの磁束を生み出して、大きな駆動力を発生させるモーター』。つまり、車のエンジンと同じですね。『駆動力(起磁力)=電流×コイルの巻き数』なので、今回はいかにコイルの巻き数を確保しつつ、小型化するかが大きなポイントでした。

今回のモーターサイズからコイルの巻き領域を割り出すと、投影面積比で26%の減少、コイルの巻数では、なんと47%も減ってしまうんです。そこで、色々な面を見直しました。

まず、巻き線に極細のものを使用していますが、テンションをかけながら巻いていくのが難しい。いかに切れずに巻くかが、技術革新の1つですね。

コイルの巻きが崩れないように端を押さえる仕切り板も、従来品から半分の厚みにしました。コイルの巻き芯についても、断面積を変えずに形状を最適化しています。これにより、小型化しながら巻き数を増やして、流れる磁束の量を維持することができました」

時計用モーターの構成と動作原理

小型化のための開発ポイント

―― とはいえ、従来のモーターにもそれなりの理由があったわけですよね?

細渕氏「従来型の巻き芯は厚みが0.4mmで、今回はこれを0.5mmに変え、そのぶん横幅を狭くしています。従来型が0.4mmだったのは、他のパーツと規格をそろえることによって、資材調達面でボリュームメリットを出すという理由がありました。今回はモーターの小型化という大きな目的があったので、そうも言っていられません」

小型化のための技術

ステーターとモーター磁石の間に働く「保持力」の最適化

―― これによって、コイルの巻き線数は維持できたのですか?

細渕氏「普通の方法では47%程度になってしまうところでしたが、25%程度までに抑えることはできました。でも、これではまだエネルギーが足りません。そこで、モーターを回す時に発生するエネルギーロスの低減に取り組んでいます。

時計を振っても針がずれないのは、そこに保持力が働いているからです。この保持力を低くすれば、より少ない電力で針を動かすことができる。しかし、耐衝撃性では不安が生じてしまいます。保持力を可能な限り小さくしつつ、耐衝撃性能も持たせることが必要になってくるわけです。今回は磁場解析シミュレーションというものを初めて使用して、保持力と駆動力のパラメータを洗い出して最適化することで、これを実現しました」

―― そのシミュレーションも社内で行っているのですか?

小島直氏

小島氏「カシオ独自の方法で行っています。詳しくはお話しできないのですが…。

今までお聞きいただいたように、特にアナログで高品位の時計を作ろうとすると、色々と障壁が多いのは事実です。でも、品質に自信を持った製品をお客様にお届けしたいと考えていますので、妥協はしないつもりです。協業メーカーさんとも綿密な連携をしつつ、また、Mantaについては山形のプレミアムプロダクションラインで生産をしていますので、製造面でも十分に配慮された製品をお届けできると思っています。

モーターが1つ増えたことで可能になった表現に加え、快適に使えるという側面もあります。OCW-S3000 / S3001では、 ホームタイム、ワールドタイム、ストップウオッチ、それぞれにモーターを割り当てています。どの機能も一層スムーズに針を動かせるようになりましたし、使いやすさ、分かりやすさが向上しました。

先にお話ししたソーラーセルの性能向上、そしてモーターが小型になったことで、今後の展開として、機能面でもデザイン面でも確実にラインナップの幅が広がるでしょう。斉藤も細渕も、無理難題とは思いながら、でも、どこかに必ず答えがあるはずと信じて研究を行い、それが結実しました。この思いもまた、製品の中に感じていただければ嬉しいです」