先ほど、Strategy Analyticsの契約者数データを単純比較して3社の規模を測ったが、SprintとT-Mobileの数字で注意する必要があるのは、この2社の契約者の4~5割程度がプリペイド等の利用者だという点だ。特にSprintは米国最大の回線卸売り業者であり、この回線を使ってMVNOでサービスを展開する事業者が多数いる。Sprint自身もサブブランドのBoost Mobile、子会社になったMVNOのVirgin Mobile USAの2社を抱えている。T-Mobileはもともとの契約者のほか、プリペイドキャリアのMetro PCSを吸収してその比率が高まった。WSJのデータによれば、SprintとT-Mobileの2社を合わせたポストペイド契約者数は5300万で、AT&Tの7200万、Verizon Wirelessの9500万と比較して非常に大きな開きが依然としてあるという。これが収益の差になって現れてくるというわけだ。実際、売上ベースでみれば契約者数シェアにあたる3分の2以上の業界シェアを2社だけで獲得している。
また買収に際して、T-Mobile USAの親会社にあたる独Deutsche Telekomは米国市場撤退を模索しているとWSJでは報じている。膨大な投資負担に対し、あまりシェア拡大が見込めず、さらに競合との差が開き始めた……これが前回T-Mobile USAがAT&T買収に傾いた原因となっている。またT-Mobile USA自身はもともと非上場企業だったが、Metro PCS買収完了のタイミングで公開企業となっている。そして株価は現時点で公開当初から2倍近くまで上昇しており、Deutsche TelekomによるSprintへの売却判断を後押しするものになると考えられる。SprintとT-Mobile自身も以前から政府に対して「強力な2社に対抗できる体制を作る必要がある」とのロビー活動を繰り広げており、その好機が近付きつつあるというのだ。
そしてSprintの背後にはソフトバンクがいる。同社はSprintを土台に米国でのプレゼンスとシェア拡大に並々ならぬ意欲を見せており、同社の設備投資だけでなく、それを介した買収攻勢を積極的に後押ししているとみられる。ソフトバンク社長の孫正義氏はSprint本社のある米カンザス市まで毎月のように出張しているほか、同社外でも役員らと頻繁に情報交換をしているといわれ、Sprintとほぼ一体のように連携しているようだ。ビジネス面では非常に鋭い勘を持つ同氏が、全米に2.5GHz帯の膨大な周波数資産を持つClearwireの完全子会社化だけでなく、このT-Mobile買収の好機を逃すとは考えにくい。現在Deutsche TelekomはT-Mobile USAの67%の株式を保有しているが、これの購入に加え、他の一部株主との交渉である程度まで株式を買い進める形がシナリオとして一番可能性が高いと思われる。