このように従来との互換性をある程度捨ててまで新規格を導入した理由は、より低消費電力での動作を実現し、搭載機器や用途を増やすことにある。例えば、機器によってはボタン電池1つで1年以上BLE通信を維持しつつ使い続けることも可能となる。こうした機器では一度にデータを大量転送するというよりも、短いデータを周期的に継続的に送受信することを目的としており、これが通信に対する負荷の軽減とバッテリ消費量低減に結びついている。やり取りされるデータも、健康器具がセンサー情報を定期的に送ったり、小型デバイス(腕時計など)がスマートフォンとステータス情報を定期交換したりと、大容量データ送受信以外の部分での活用がメインとなっている。
そして、いまBLEが注目されているもう1つの理由として挙げられるのが、近接センサーとしての役割だ。Bluetoothの到達距離は一般に半径数メートル~10数メートル~100メートル以内とされているが、このうち数メートル~10数メートル程度のデバイス間の距離を測る機能が用意されている。これはBLE対応デバイスが互いに「ビーコン(Beacon)」と呼ばれるごく短いデータを定期的に送信して、互いのデバイスを認識しつつ、そのおおまかな距離を測ることができる。これをWi-Fiと組み合わせることで「屋内での(誤差数メートル以内の)正確な位置情報測定」ができたり、あるいは腕時計とスマートフォンを互いに通信させておくことで距離が離れたときにアラームを鳴らしたり端末を自動ロックしたりと「盗難防止装置」の役割を果たし、さまざまな応用が考えられる。冒頭でも紹介した「iBeacon」や「PayPal Beacon」はこの部分を利用したもので、ショッピングや広告プロモーションへの応用が期待されている。
近距離測定技術を応用した「iBeacon」と「PayPal Beacon」
発表当初は「ショッピング革命」「NFCを駆逐する」などといった論調で語られていた「iBeacon」だが、その実はBLEの近接通信技術を応用したものに過ぎない。だが、今後ショッピングモールや小売店などがビーコン技術の実装を進め、より実践的なアプリケーションを開発していくことで、本当に「ショッピング革命」のようなものが起こるかもしれない。少なくとも、現時点では「商店に近付いた(潜在的な)客に店や商品の情報を定期送信する」といった用途に留まることになるだろう。