それでは、いよいよUASをカタログ的に紹介していこう。画像は、可能なものは軍の公式サイトもしくは開発元のメーカーから拝借したが、入手できなかったものは、プレゼン画面のものをそのまま使用させてもらっている。また、スペックに関しても、軍もしくはメーカーの公式資料を入手できたものは、食い違いがある場合、公式資料を参照しているが、入手できなかったものはプレゼン画面のデータを使っている。また、離陸重量と重量という2つの表現があるが、プレゼン画面の表記に従ったのでご了承いただきたい(航空機の場合、燃料などを抜いた空虚重量、最大積載量を加えた離陸重量など、重量でもいくつかある)。
米国が所有するUASは種類もさまざま
まずは米国からで、画像25が陸軍の前線の兵士が偵察や監視などに使用する「Wasp(Wide Area Surveillance Projectile:ワスプ)」。マサチューセッツ工科大学で開発された。ナップザックに詰めて敵のいそうな位置に接近し、兵士自身は敵部隊から死角になるような位置よりWaspを飛ばして敵部隊の動向をつかむというものである。電池駆動である点も特徴的だ。
画像26も陸軍で偵察・監視で使用されており(90年代のコソボ紛争時代から使われ、イラク戦争、アフガン戦争でも活躍)、最も使用頻度が高いという「RQ-5 Hunter(ハンター)」。イスラエル・エアロスペース・インダストリーズ社製だ。不整地で離着陸が可能な点も特徴である。なお、Rは偵察の「Reconnaissance」を、Qは無人機をそれぞれ意味する。
画像27はUASで最も名の知れた機体の1つであり、最初の先進概念技術実証機でもある、「MQ-1 Predator(プレデター)」。ジェネラル・アトミックス社製だ。本来は偵察や監視などを用途として開発されて「RQ-1」のコードが与えられていたが、現在は改良されて「ヘルファイア対地攻撃ミサイル」を搭載できるようになったことから、Rから多目的の「Multi」を意味するMに変わった。21世紀に入ってからのイラク戦争、アフガン戦争が厳しくなってきた際に、試験的にミサイルを装備させたところ、効果が上がったことから正式に改良されるに至ったという。
画像28は、アフガン戦争で活躍したジェネラル・アトミックス社製の「MQ-9 Reaper(リーパー)」。攻撃力を追加したプレデターが成功したことから、レーザー誘導爆弾やヘルファイアミサイルの搭載能力を最初から持たせて開発された「プレデターB型」ともいわれる機体だ。ただし、ベースとなったプレデターよりも大型化している。ちなみにプレデターとリーパーの形状的な大きな違いは尾翼周辺で、プレデターは3本の尾翼が下向きなのに対し、リーパーは2本が上向き1本が真下に向いている点だ。また、「プレデターC」こと「Avenger(アベンジャー)」という次世代型の少し形状の異なる進化型や、再度偵察のみに限定した「プレデターXP」、派生型の「Gray Eagle(グレイイーグル)」という機体もある。
画像29は、日本が購入を検討しているといわれる戦略偵察機の「RQ-4 Global Hawk(グローバル・ホーク)」(福島原発の事故の際にも上空を飛行した)。ノースロップ・グラマン社製だ。なお、現在はB型が最新モデルだ。6万フィート=1万8000m強という敵の攻撃がおよばない「サンクチュアリ(聖域)」といわれる超高空を28時間飛行可能な大型機である。
そして画像30は、米海軍が「Uclass(Unmanned Carrier-Launched Surveillance Systems:空母搭載用無人偵察機)」プログラムで開発を行っている艦載型戦闘用UASの1号機「X-47B Pegasus(ペガサス)」。ノースロップ・グラマン社が開発している。20トンの大型機で、偵察に加え、攻撃、空中戦も可能な機体となっている。現在は、「UCAS-D(Unmanned Combat Air System-Demonstrator:無人戦闘機システム実証試験)計画」で空母において運用試験が行われており、カタパルトからの射出に加え、先頃は着艦にも成功しており、非常に開発が順調なことから、次の機体が開発されることも決定済みだという。
UASが登場した時点から「未来の戦場にパイロットはいない」などといわれてきたわけだが、空母に着艦できるレベルまで来たとなると、本当にパイロットは必要がなくなりそうである。実際、戦死者を出さずに済むという点からも、軍としては戦闘機や攻撃機に乗り込むパイロットという職業がない方がありがたいことだろう(もちろん、今の段階では人に対する信頼性や確実性の方が遙かに上)。
雇用などの問題もあるし、まだまだ人が搭乗することによる現場の判断力でなければ対応できない状況もあるだろうから、この20年、30年では戦闘機・攻撃機に直接乗り込むパイロットという職業が全廃されるということはないとは思う。ただし、21世紀中というもう少し長いスパンで見たら、少なくとも米軍に限っては、すべての航空機・ヘリコプターが遠隔操縦のパイロットに置き換わるぐらいの状況もありえるのではないだろうか。
さらにその先では、陸海空すべての機体を完全自律型のUASで編制するような計画が立てられるかも知れない。このまま開発が進めば、今後100年後か200年後か正確な予測は難しいが、完全自律型でも人よりミッションの成功率で上、機体損耗率で下という時期が必ず来ることだろう。そうなった時、ソフトウェアの開発と管理のコストの方が、パイロットの養成と保有にかかるコストよりもかからないとなれば、戦死者を出さずに済むことからも、確実に切り替えられていくはずである。パイロットという職業が過去のものとなりそうな雰囲気を本当に感じさせられる、米軍のUASの充実ぶりであった。
米国以外のUASの保有機体
次は、保有機種数2位の中国の機体を紹介しよう。まずは「プレデターの模造品」などと陰口を叩かれている、偵察や対地攻撃など多目的型の「ASN-229A」(画像31)。プレデターと比較すると性能的に若干劣るが、大きく劣るというわけではなく、侮れない。また、複合材を多用している点が特徴だという。なお、どのように運用されているかといった情報はほとんどないそうである。
続いて画像32は、尖閣諸島を飛来したとされている偵察・情報収集・監視用の「BZK-005」。注目すべきは40時間という航続時間で、速度が時速150~180kmとされることから、中国の東側の基地から飛び立って日本全土を偵察して帰還できるという。この航続時間の実現のためにペイロードが犠牲になっているようで、その分、多くの燃料を詰めるようになっているようだ。
画像33は、対地攻撃を用途とし、ヘルファイアと同等の対地・対戦車ミサイルを搭載可能な「Pterodactyl(ペトロダクタイル)」。
画像34は、対地ミサイルおよびレーザー誘導爆弾を搭載可能な対地攻撃用の「CH-3 UCAV(ユーキャブ)」。比較的小型の機体だ。カナード翼が使用されているのが特徴の1つ。
画像33(左):ペトロダクティル。重量:1100kg、全長・翼長:資料なし、航続時間:20時間、最高高度・最大速度:資料なし、センサ:FLIR、武装:対地・対戦車ミサイル、ペイロード:資料なし。画像34:ユーキャブ。重量:640kg、全長・翼長:資料なし、航続時間12:時間、最高高度:資料なし、巡行速度:時速220km、武装:対地ミサイル・小型レーザー誘導爆弾、ペイロード:資料なし |
引き続き、3位のイスラエル。イスラエルはUASの技術力が非常に高く、なおかつ米国と仲がよいため、米軍に採用されたUASはイスラエルのメーカー製のものも多く、技術的な協力もなされているという。まずは中高度長時間滞空型で、偵察、監視、地上攻撃という多目的UAS「Dominator(ドミネーター)」(画像35)。エアロノーティクス社製だ。なお、エアロノーティクス社の公式サイト上では、かなり形状の異なるものがドミネーターとして紹介されており(画像36)、画像35は航空ショーに展示されたダミーの機体だろうか?
画像35(左):ドミネーター(の試験機?)。離陸重量:1200kg、全長:資料なし、翼長:13.42m、航続時間:28時間、最高高度:資料なし、最高速度:時速354km、センサ:資料なし、武装:ミサイル、ペイロード:408kg。画像36:エアロノーティクス社の公式サイトで紹介されている、ドミネーターの実機。飛行している動画も見られる。(c) Aeronautics |
続いて、レーダー基地攻撃・敵防空陣地の制圧を目的とした「Harpy(ハーピー)」(画像37)。開発はイスラエル・エアロスペース・インダストリーズ(IAI)社だ。どのように攻撃するのかというと、32kgの高性能弾頭を積んでいるので、そのまま特攻するのである。今回の講演ではUASとして紹介されているが、IAI社ではUASとしては紹介されていない。なお、チリ、インド、韓国、トルコ、中国などにも輸出されている。
次は、ほかにあまり例のない(今回紹介される中でも唯一)、負傷兵救助用の「AirMule(エア・ミュール)」だ(画像38)。アーバン・エアロノーティクス社製である。航空機というよりは、ホバーカーといった趣で、翼で揚力を発生させるのではなく、前後2つの大型ローターで浮力を得て、後方の2つの小型ローターで前後進の推力を得るという具合だ(SF映画「ブレードランナー」で人気を博した飛行車両「スピナー」を彷彿とさせる)。画像39は一部の装甲板が外され、着陸脚の仕様も異なる試験機と思われる機体による、ホバリングテストの様子。
2014年の配備が予定されており、機体内に2名の負傷者を搭乗させられる。さすがに、負傷兵の救助まで自動化されているわけではなく、あくまでも自力で乗り込むか、味方に載せてもらう必要がある。また、機体内に手術機器などがあるわけではない。米国でも同様のUASを開発しているそうだが、かなり難しく、形になるのはまだしばらく先になるという。
最後は、7位の英国。まずは、情報収集・監視・偵察・標的捕捉を用途とした、中高度・長時間対空型の「HERTI(High Endurance Rapid Technology Insertion:ハーティー)」(画像40)。HERTIは軍民両用なのが特徴で、センサを取り替えることで切り替えを行う形だ。BAE Sysytems社製である。
そして、力を入れて開発が行われており、現在は地上試験中という戦闘航空無人機「Taranis(タラニス)」(画像41)。英国から欧州へと飛行して軍事活動を行えるUASだ。今年中に初飛行が行われる予定だという。こちらもBAE Sysytems社製だ。