第1の方式であるUSIM方式は、主要な推進母体である携帯キャリア側の意向にもかかわらず、セキュリティ上の懸念の解決やすり合わせの問題により、ほぼ世界的にまともに立ち上がった地域が存在しない。注目の1つだった米ISISは、サービス表明から2年以上が経過した今年11月になり、ようやく全米でのロールアウトを表明した段階だ。2つめ組み込みSE (eSE)方式は比較的古くからある実装方法だが、最近では主要推進派だったGoogleが同方式でのサービス拡大を断念し、Visa Internationalと共同で端末へのeSE標準搭載をうたっていたSamsungは、いまだ対応端末を1台もリリースしていない。理由の1つは携帯電話のディストリビューション権を握るUSIM方式推進派の携帯キャリア側の抵抗にあるが、ユーザーを満足させられるだけの十分な環境やメリットを用意できなかったことにもあると思われる。
業界の空気が変わりつつある
NFCとモバイルペイメントに関する集中取材を2年半ほど続けてきた経緯から、筆者は問題の根底は業界内の足の引っ張り合いと明確なビジネス性を持って対応にあたらなかった推進側の姿勢にあると考えている。スマートフォンの多くがNFCに対応し、NFC対応決済ターミナルも大手小売業者を中心にかなり採用が進んだ状況でも利用が進んでいないあたり、NFCにおけるモバイルペイメントの取り組みに問題がある証左だといえるだろう。こうした経緯に業界全体が危機感を覚え始めており、ライバルの動きを牽制するよりも先に、まずサービス普及を優先させるようになったと空気の変化を感じるようになったのがここ半年から1年ほどの動きだ。
今回のSDAの新仕様策定に関して1つ驚いたのは、microSDからHCI / SWPを使ったNFC通信方式を強力にプッシュしている会社の1つがGemaltoだという点だ。GemaltoはUSIMの世界の市場シェアの大部分を握り、NFCの搭載方式でもUSIM方式推進の急先鋒の1社だと認識していた。だが同社は今年のCartesでUSIMだけでなく、eSEやSDカード方式などのサポートも積極的にアピールしており、少なくとも複数の同社関係者がすべての方式へのサービス積極対応をうたっていた。しかも同社の虎の子であるSWPをSDカードにも放出し、USIM以外の陣営の取り込みも狙っている。考えられることの1つは、USIM方式で携帯キャリアの力に頼るだけではNFCの利用拡大は難しいと判断し、自社のビジネス機会拡大のためにも横展開を図るほうが得策だと考え始めたのではないかと推察している。SDカードはスマートフォン以外にも応用範囲が広く、3G通信を必要としないデジタル機器や組み込みデバイスなどへの搭載も期待できる。モバイルペイメント自体は亀の歩みでも、横方向での市場展開が可能だといえる。
またモバイルペイメントについても、今年はISISがついに立ち上がったほか、日本では年末~年明けにかけて三井住友のVisa payWave、NTTドコモのiD~PayPass連携が立ち上がるなど、各国で関連サービスの立ち上げや本格ロールアウトがスタートする。最後の砦であるiPhoneへのNFC機能搭載の可否も2014年にその動向が判明する。ようやくという感じではあるが、来年はNFCにとって大きな節目の年になりそうな予感だ。
(記事提供:AndroWire編集部)