3名のアニメプロデューサーは『かぐや姫の物語』を大絶賛する

『かぐや姫の物語』を「2時間17分間が一瞬に感じた。口をあんぐり開けたまま見続けた」と、その衝撃を語るのは石井プロデューサー。「高畑勲という演出家の手練手管と、描かれた絵の凄まじさに感動した。手で描いた絵が動くだけでこれだけ快感物質が出るなんて」

2時間17分というとアニメ映画としては長めの上映時間だ。しかし、川上氏によると「ダラダラしているわけじゃなくて、本当に必要なものしか入っていない。脚本段階では3時間くらいあった。無駄なものがひとつもない」のだという。

そして、その凄さの一端がかいま見えるエピソードが、石井氏から語られた。

「物量でいうと、TVアニメシリーズ1話分の作画枚数と『かぐや姫の物語』の1カットの作画枚数が同じくらい。アニメは緻密化かキャラクター化のどちらかに向かっているが、『かぐや姫の物語』はそうではない。情報量が減っているのに、そのほうがお客さんが感動するんだということを見せつけられた」

それだけ手間と時間をかけて丁寧に制作された『かぐや姫の物語』は、実に完成まで8年を要した。高畑監督と共に本作の制作に携わったのは西村プロデューサーだが、齋藤氏によると「『かぐや姫の物語』を作っている間に生まれた西村氏の子どもが小学校に上がった」とのことで、それだけの期間をかけて制作されたからこそ、ここまでの完成度になったのだという。

「かぐや姫って誰もが知っている話なんだけど、『かぐや姫の物語』を見ると、改めてこういう話だったんだ、こういうことだったんだって思える映画。子ども時代のかぐや姫が愛らしくて、自分の娘と同じくらい愛せるんじゃないかっていうくらい可愛く思える」(齋藤氏)

ちなみに、『夢と狂気の王国』の撮影時期はちょうど『かぐや姫の物語』とも重なっているが、先に『夢と狂気の王国』を見ても特にネタバレなどの問題はない。なぜなら「ドキュメンタリーを撮っている最中に高畑監督に怒られて、かぐや姫(の制作現場)があまり撮れなかった」からだ(川上氏)。

そんな高畑勲監督の話で盛り上がったトークショーだが、本来のトークテーマの一つであった「ポストジブリ」や「ジブリ以降の日本のアニメーション」については、それほど深くは語られなかった。宮﨑監督が引退宣言をしてからまだ2カ月、同じアニメ業界に生きる若手プロデューサーにとって、そう簡単に断言できることではないのだろう。

『夢と狂気の王国』

プロデューサーの川上氏いわく、「今までのジブリのドキュメンタリーは、宮﨑駿というスーパーマンを描いていた」が、『夢と狂気の王国』はそうではなく、「宮﨑駿がどんな環境で仕事をしていたのか」を描いている映画だという。そこに描かれているのは、宮﨑駿・高畑勲・鈴木敏夫という3人だけでなく、彼らと共に仕事をする数多くのスタッフの姿だ。

「仕事をするということは、パートナーと一緒に生きるということ。一緒に生きる道を選択するということ」(川上氏)

知られざるスタジオジブリの夢と狂気。「かぐや姫の物語」とあわせて観ると、より楽しめそうだ。